$あれも聴きたいこれも聴きたい-Zappa19
 「万物同サイズの法則」はマザーズ・オブ・インヴェンション名義のアルバムとしては最後の作品にして、フランク・ザッパ先生の最高傑作の一つとして、とても人気の高い作品です。私ももう好きで好きでたまりません。宇宙空間に漂うソファを見ているだけで興奮します。

 バンドは俗に74年マザーズと呼ばれる面子で前作「ロキシー&エルスウェア」とほぼ同じです。ジョージ・デューク、ナポレオン・マーフィー・ブロック、ルース・アンダーウッド、チェスター・トンプソン、トム・ファウラー。ここに先生を加えて74年マザーズです。

 マザーズの1974年はツアーに明け暮れた年でしたが、8月にはロサンゼルスのテレビ・スタジオで「ア・トークン・オブ・ヒズ・エクストリーム」なるマザーズのスペシャル・プログラムのために演奏しています。ただし、この番組は米国ではしばらく放映禁止になっていたそうです。

 しかし、そこでの演奏から名曲「インカ・ローズ」と「フロレンティン・ポーゲン」の2曲が本作品に収録されています。そして、その「インカ・ローズ」のギター・ソロ部分はヨーロッパ・ツアーの一部、9月22日のヘルシンキ公演から採用されています。

 この時の公演は、後に「ヘルシンキ・テープス」と題されて、「オン・ステージ」シリーズの第二弾として発表されることになります。74年マザーズの真骨頂を示す驚異の名演です。この時のヨーロッパ公演はかなり過密な日程でした。気合が入っていますね。

 さらりと書きましたが、本作品の「インカ・ローズ」はいくつかの公演のテープをつなぎ合わせて出来上がっています。今後のザッパ先生のスタイルはここに完成したと言えるでしょう。ライブやスタジオのベスト・テイクをつなぎ合わせ、時にはオーバー・ダブを施していく。

 よくままあうまくつながるものです。ここにはルースのパーカッションがカギを握っているようです。ルースがしっかりタイムを刻んでいるので、それを基準にしてつなぐのだそうです。先生のルースへの信頼は厚く、「ルースが三人いるなら三人とも雇いたい」とおっしゃっています。

 ただし、音はよいにしても映像はなかなかそうはいきません。うまくつながらない部分にはオタクの中のオタク、ミスター・ビックフォードによるクレイ・アニメを入れて、映像のシンクロを図っています。鬼気迫るシュールな映像でつなぐ、金継のような効果があります。

 その「インカ・ローズ」は複雑な構成のとても完成度の高い楽曲です。デュークはここでリード・ボーカルをとっている他に、ほとんど触ったこともなかったというシンセをアメイジングに使いこなしています。軽めの録音なのに濃厚な演奏が素晴らしいです。

 「フロレンティン・ポーゲン」も名曲ですし、なぜか半分ドイツ語で歌われる「ソファ」もいい。ヘビメタ・ファンに聴かせたいスピード感のある「アンディ」も外せないですし、「サン・ベルディーノ」のチンピラ感も捨てがたい。捨て曲なしの大傑作だと思います。

 なお、ゲストには先生のヒーローの一人であるジョニー・ギター・ワトソンが招かれています。もう一人、ブラッド・ショット・ローリング・レッドとあるのは先生のご学友キャプテン・ビーフハートです。存在感のある二人のゲストの参加はアルバムの味わいをさらに濃くしています。

One Size Fits All / Frank Zappa & The Mothers Of Invention (1975 DiscReet) #020

*2012年10月7日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Inca Roads
02. Can't Afford No Shoes
03. Sofa No.1
04. Po-Jama People
05. Florentine Pogen
06. Evelyn, A Modified Dog
07. San Ber'dino
08. Andy
09. Sofa No.2

Personnel:
Frank Zappa : all guitars, vocal
George Duke : all keyboards & synthesizers, vocal
Napoleon Murphy Brock : flute, tenor sax, vocal
Chester Thompson : drums, gorilla victim
Tom Fowler : bass (when left hand is not broken)
Ruth Underwood : vibes, marimba, other percussion
James "Bird-Legs" Youman : bass
Johnny "Guitar" Watson : flambe vocals
Bloodshot Rollin' Red (Captain Beefheart) : harmonica