$あれも聴きたいこれも聴きたい-Zappa17
 フランク・ザッパ先生の17枚目のアルバム「アポストロフィー(’)」は見事に全米10位に入る大ヒットとなりました。これまで、ヒット・チャートとはあまり縁のない人だっただけに、驚きの結果です。結局、このアルバムがザッパ先生の全カタログの中で最もヒットしました。

 ヒットの理由がまた面白くて、アルバム冒頭の曲「ドント・イート・ジ・イエロー・スノー」とそれに続く3曲を足した組曲を、新しいノベルティー・レコードだと勝手に解釈したDJが、ダイジェスト版に編集して、ラジオで流したところ、これが大当たりしたのだということです。

 それを聞いたザッパ先生は、DJがカットした通りに編集したバージョンを急きょシングルとして発売しました。レコード会社も本人も全く予期できなかったこのヒットのおかげでアルバムも売れに売れたのだそうです。ヒットというのは結局そんなことなんですね。

 ノヴェルティーだと言えば、そうですね。黄色い雪。私の故郷も雪が結構ふりますから、この意味するところは一目瞭然です。子どもの頃にはよくやりました。黄砂なんかじゃないですよ。この歌詞ではハスキーのウィー・ウィーとなっていますね。要するに小便のかかった雪です。

 ザッパ先生のこの作品は、前作の「オーバーナイト・センセーション」と同時並行で制作されています。前作がマザーズ名義だったのに対し、こちらはソロ・アルバムの位置づけです。バンド・メンバーはほとんど同じで、その使い分けは正直よく分からないところもあります。

 しかし、「ほとんど」というところが味噌。こちらのアルバムでは、昔のマザーズにいたレイ・コリンズやシュガーケイン・ハリスなどが含まれているのはご愛嬌として、最大の大物はジャック・ブルースです。伝説のスーパー・グループ、クリームのベーシストです。

 グランド・ワズー・ツアーに参加していたジム・ゴードンの紹介によるそうです。ジムも凄い人で、デレク&ザ・ドミノスやトラフィックなどの有名どころに参加している他、ビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」にジョン・レノンの「イマジン」と超名盤にも名が残ります。

 それで、この作品のタイトル曲は、ジム・ゴードン、ジャック・ブルース、フランク・ザッパのトリオによるインストです。ジンジャー・ベイカー、ジャック・ブルース、エリック・クラプトンがクリームですから、さながら裏クリームと言ってよいと思います。曲調もクリームの裏っぽいです。

 ただ、ゲスト色に染まらないザッパ先生。タイトル曲以外では、前作同様、本人が気持ちよく歌いまくっています。歌詞も面白くて、先のノヴェルティー組曲の他にも「スティンク・フット」が足が臭い病の男の話、ライブの定番「コズミック・デブリス」はカルト宗教の話と絶好調です。

 ソロとなって、わずかながら前作に比べるとバンド色が少ないですが、それでもロック魂がさく裂しているので、とても聴きやすいです。ジャケットには「食事やダンスの楽しみのために演奏された音楽だ」と書いてあります。皮肉だととる人も多いようですが、本心でしょう。

 ザッパ先生はヒットが大そう嬉しくて、50人ものマーチング・バンドを雇って、バーバンクにあるワーナー・ブラザーズのオフィスの前を、スタッフを讃えるプラカードを掲げてパレードしています。ちゃんと仕事をすると先生もレコード会社を褒めることがあるという逸話です。

Apostrophe' / Frank Zappa (1974 DisCreet) #018

*2012年9月26日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Don't Eat The Yellow Snow
02. Nanook Rubs It
03. St. Alphonzo's Pancake Breakfast
04. Father O'blivion
05. Cosmik Debris
08. Excentrifugal Forz
07. Apostrophe'
08. Uncle Remus
09. Stink-Foot

Personnel:
Frank Zappa : guitar, vocal, bass
***
Jim Gordon, Johnny Guerin, Aynsley Dunbar, Ralph Humphrey : drums
jack Bruce, Eroneous, Tom Fowler : bass
George Duke : keyboards
Sugar Cane Harris, Jean-Luc Ponty : violin
Ruth Underwood : percussion
Ian Underwood, Napoleon Murphy Brock : sax
Sal Marquez : trumpet
Bruce Fowler : trombone
Ray Collins, Kerry McNabb, Susie Glover, George Duke, Debbie, Lynn, Napoleon Murphy Brock, Ruben Ladron De Guevaram Robert "Frog" Camarena : chorus