$あれも聴きたいこれも聴きたい-Jam 04 イートン校と言えば、英国のエスタブリッシュメントを象徴するパブリック・スクールです。いかにも英国的な香りがしますね。しかし、貴族は少し前まで学校なんて行きませんでした。庶民からエリートを選抜する仕組みだったんですかね。

 イートン校出身のキャメロン首相は、ジャムの「イートン・ライフルズ」が大好きだと語っています。しかし、この歌は、職よこせデモがイートン校の生徒に襲いかかったところ、返り討ちにあってしまったという、身もふたもない事件を歌った歌ですから、ポール・ウェラーは不快感を表明しています。当たり前ですね。

 前作でブレイクしたジャムは、今作でコンセプト・アルバムに挑戦しました。パンクは古いロックに対するアンチの意味合いもありましたから、シングル盤中心、古い世代の象徴であるコンセプト・アルバムに挑戦するとはなかなか勇気がある所作です。

 ただ、ジャムの先達となるザ・フーやキンクスはコンセプト・アルバムで名高い人たちですから、ポール・ウェラーの中では、必然だったのかもしれません。

 どんなストーリーかといえば、幼馴染の若者三人が長じて再会したものの、結局、昔のようにはなれなかったというお話です。青春ですね。ロックのコンセプト・アルバムはこういうお話が多いです。若者の音楽ですからね。

 ところが、結局、アルバム全部を埋めるためには曲が足りませんでした。コンセプト曲は、「引き裂かれぬ仲」、「燃え上がる空」、「イートン・ライフルズ」、「不毛の荒野」、「少年の兵士」の5曲です。アルバムは全部で10曲。半分ですね。

 しかも片面に集めたわけではなく、アルバムはごちゃまぜになってしまいました。残りの曲には、マーサ・アンド・バンデラスの「恋はヒート・ウェイブ」なんていうモータウン・カバーまであって、コンセプトにこだわらない結果になってしまいました。

 しかし、そんな中途半端な作品であるにもかかわらず、素晴らしいアルバムになりました。前作よりも売れて、ヒット・チャートでは2位にまで上昇、ジャムは英国の音楽誌では人気ナンバー1となりました。

 今回、コンセプト・アルバムとはならなかったわけですが、ポールの歌う詩は一段と洗練されてきています。しかも、ジャムの場合、ザ・フーやキンクスのストーリーに比べると、普遍化の度合いが小さく、それだけ当時のイギリスの若者に密着しているのだと思います。

 そんなわけで、アメリカでは受けませんし、イギリスでも異常なまでの人気ぶりなのですが、チャートの1位になることはない。日本でもそこそこの人気でしたが、たとえばポールよりもベースのブルース・フォクストンの方が人気が高いとか、ちょっと違う受け止められ方でした。紙ジャケに封入されているケンショーさんとミッキーさんのオリジナル・ライナーを読むと、なかなか面白いですよ。

 楽曲は前作で果たした方向転換をより推し進めたサウンドになっています。なかなかポールが曲を書けなかったので、録音した作品をいじる時間が多かったとか、いろいろな理由があるようですが、さまざまな工夫がされています。ストレート一辺倒ではなく、ヘビーな展開からストリングス導入までバラエティーに富んできました。

 私は、「イートン・ライフルズ」が大好きでした。この曲を初めてラジオで聴いた時には背筋がぞくぞくしましたね。このベース・ラインは素晴らしいし、ポールのどすの効いたボーカルもかっこいいです。

 アルバムもいいですよ。これもまたジャムの傑作です。ポール・ウェラーはあまり気に入っていないようですが。完璧主義者はこれだから困りますね。

 前作までで、自分探しを終えたポール・ウェラーがいよいよ外に向かってその才能を全開にしたアルバムだと言えると思います。

Setting Sons / The Jam (1979)