$あれも聴きたいこれも聴きたい-Zappa14 1971年12月、♪フランク・ザッパ&ザ・マザーズ♪はスイスのモントルーでライヴを行いました。そこで観客のフレア・ガンを原因とする火災が起こりました。その光景を歌ったのがディープ・パープルのクラシック「スモーク・オン・ザ・ウォーター」です。

 ザッパ先生の災難はそれで終わりません。火事で失った機材を新調して臨んだロンドンのレインボー・シアターでのライヴ中、ザッパ先生は、ステージに上がって来た客にオーケストラ・ピットに突き落とされ、足を骨折したばかりか一時は意識不明の重体に陥りました。

 映画「200モーテルズ」のプロモーションを始めとするツアー活動も休止を余儀なくされます。しかし、そこはザッパ先生、車いす生活の中で作曲活動に没頭し、完治する前にミュージシャンを集めて、本作品「ワカ/ジャワカ」と次の「グランド・ワズー」を制作しました。

 本作品の参加メンバーは一新しました。前作までフロントにいたフロー&エディーは先生の入院中に先生を批判して、バンドを離れていってしまいました。そのことが大きく影響しているのか、本作品はインストゥルメンタル曲を中心としたアルバムになりました。

 ジャケットに記されている通り、名作「ホット・ラッツ」の続編として、エレクトロニック・チェンバー・ミュージック全開となったわけです。全4曲、最初の「ビッグ・スイフティー」と最後の「ワカ/ジャワカ」は長編インストゥルメンタル、挟まれた二曲がボーカル曲です。

 ボーカル曲は、似非ブルースともいえる不思議な味わいの曲で、ボーカルのクレジットは4人が分け合っています。ただ、どちらもフロー&エディーが歌っていてもよかったなと思わせる曲です。多少は彼らが念頭にあったのかもしれませんね。

 本作品の目玉はやはり2曲の長編インスト曲です。ジャズに影響を受けたと評されることが多いのはビッグ・バンドによる作品を思わせるからです。しかし、繊細かつ複雑な構成にもかかわらず、穏やかで明るく洗練されたサウンドに仕上がった曲はむしろクラシック的です。

 多人数の作品かと思いきや、「ビッグ・スウィフティー」などはわずか6人による演奏です。ホーンなどはわずか一人の多重録音、先生のバンド以外ではあまり名前を聞かないサル・マーケスが大活躍です。彼の役割は「ホット・ラッツ」のイアン・アンダーウッドに相当します。

 「ビッグ・スイフティー」は、「約1時間にわたるオーケストラのインプロヴィゼーションが行われた後、サルはこのリズム的に複雑で混乱しそうな曲の楽譜を採譜した」ということで、それをもとに出来上がったわけですから、マーケスの功績は甚大です。

 もう一人の立役者はと言えば、ドラムのエインズレー・ダンバーでしょう。いつものロックな彼からは想像できないほど複雑なリズムを実に軽快かつ濃厚に叩くので、それだけ追っていても十分に楽しいです。この後の活躍も当然だと思わせる大活躍です。

 がらりと作風が変わった作品ですが、相変わらず傑作です。流れるような演奏はとにかく極上です。マザーズの猥雑さも大きな魅力でしたけれども、ここで聴かれる美しい落ち着いたサウンドには別の魅力があります。先生の作品の中でも特に好きなアルバムの一つです。

Waka/Jawaka / Frank Zappa (1972 Bizarre) #015

*2012年6月26日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Big Swifty
02. Your Mouth
03. It Just Might Be A One-Shot Deal
04. Waka / Jawaka

Personnel:
Frank Zappa : guitar, percussion, acoustic guitar, electric bed-springs
***
Tony Duran : slide guitar, vocal
George Duke : ring-modulated & echoplexed electric piano, tack piano
Sal Marquez : trumpet, chimes, vocal, flugel horn
Erroneous : electric bass, vocal, fuzz bass
Aynsley Dunbar : drums, washboard, tambourine
Chris Peterson : vocal
Joel Peskin : tenor sax
Mike Altschul : baritone sax, piccolo, bass flute, bass clarinet, tenor sax
Jeff Simmons : Hawaiian guitar, vocal
"Sneaky Pete" Kleinow : pedal steel solo
Janet Ferguson : vocal
Don Preston : piano, mini-moog
Bill Byers : trombone, baritone horn
Ken Shroyer : trombone, baritone horn