$あれも聴きたいこれも聴きたい-Monteux 昨日は仕事への意欲を失いそうだったので、今朝はクラシックを聴きました。今日の一枚はラヴェルの「ダフニスとクロエ」です。ラヴェルの管弦楽曲の一つの頂きにある作品だと思います。

 そもそも「ダフニスとクロエ」というのはギリシャのエロチコイです。エロチコイ、エロチコイ。何だか面白い響きなので3回も書いてしまいました。エロチコイというのは2~4世紀のギリシャの恋愛小説作家の総称です。その一人、ロンゴスの傑作が「ダフニスとクロエ物語」です。ギリシャと言えば、ホメロスやサッフォー、そして悲劇や喜劇の劇作家の方が名高いですが、どうしてどうして、エロチコイも頑張っています。

 「ダフニスとクロエ」は当時の恋愛冒険物語の中で頭一つ抜けた作品です。牧人ダフニスと羊飼いの娘クロエは、レスボス島の田園を舞台に清純な愛を育みますが、彼らを待ち受けるのは幾多の困難。しかし、やがて二人は金持ちの市民の捨て子だったことが判明し、めでたく結婚するというお話です。

 当時、パリで大成功していたバレエ団を率いていたディアギレフにバレエ音楽の作曲を依頼されて、ラヴェルが書いたのがこの「ダフニスとクロエ」の音楽です。初演は1912年。ロシア・バレエ団の舞台で、ダフニスを演じたのはニジンスキーです。バレエといえば「白鳥の湖」しか知らなかった私ですら知っているディアギレフにニジンスキー。何だか夢のようなお話です。

 それで、その初演の指揮をしたのが、ピエール・モントゥーでした。初演で棒を振った人の録音を聴けるなんて、これまた贅沢な話です。もちろん、この録音は初演のものではありません。デッカの誇る技術によって1959年4月にロンドンで録音されたものです。モントゥーが率いるのはロンドン管弦楽団です。

 全体は3部構成で、全12曲51分ですから、普通のポピュラー音楽と同じような聴き方ができるのが嬉しいです。ストーリー展開がありますから、起承転結もはっきりしていますし、海賊が出てきたり、戦いが起こったり、踊ったり、泣いたり、笑ったりとなかなか忙しいです。要するに映画音楽ですね。監督の依頼を受けて、ストーリーや踊りを十分に意識して作り上げた作品。

 そして、坂本教授によりますと、「ラヴェルの数あるオーケストレーションの中でも、緻密さ、精緻さの面で極致(スコラ4巻)」です。この緻密さは楽団員に名人芸を要求するものだという事です。なるほど。そういうことかと勉強しながら聴きました。

 素晴らしい録音ですし、何といってもこの音像には品があります。華麗な曲の優美な演奏を愛にあふれた録音で収めたこのCD。丁寧な仕事です。

 しかし、このCDを聴いて、「さあ頑張るぞ」という気になるかどうかはまた別の話です。むしろ、ニジンスキーの伝説の世界に旅立っていきたくなってしまいました。徹底的にヨーロッパが輝いていた時代の空気を色濃くまとった作品です。

Maurice Ravel "Daphnis Et Chloe" / Pierre Monteux, London Symphony Orchestra (1959)