$あれも聴きたいこれも聴きたい-Streetmark
 ストリートマークは1969年に結成されたドイツのロック・バンドです。レコード・デビューは1976年で、1981年までに4作のアルバムを発表しています。本作品は1977年に発表されたストリートマークのセカンド・アルバムですが、ドイツでは物議を醸した問題作です。

 とはいえストリートマークには何の非もありません。このセカンドでバンドの中心にいたウォルフガング・リーヒマンが1978年8月に刺殺された事件をきっかけに、「リーヒマンとストリートマーク」と改題して再発したため、「死を商売にするのか」と非難が巻き起こったんです。

 この時、タイトルだけではなく、ジャケットにも一見してリーヒマンのソロ作「ヴンダーバー」を思わせる写真が使われていました。やり過ぎです。アルバムのタイトルは反省したのか、CD再発の際には「ドリームス」となり、サブスクでは「アイリーン」に戻っています。

 私はリーヒマンのソロ・アルバムが大好きだったので、当時、この再発LPを輸入盤店で発見した時には、リーヒマンの新作だと思って欣喜雀躍したものです。リーヒマンに不幸があったこと、ドイツ国内でそんな議論があったことを知ったのはずいぶん後になってからです。

 実はリーヒマンがストリートマークに在籍した期間は短く、参加しているアルバムはこのセカンドだけです。デビュー作はゲオルグ・ブッシュマンなるミュージシャンがリーダー的な役割を果たしていましたが、自身のバンドを作るために脱退、リーヒマンはその後任です。

 新しく加入したにしては、リーヒマンは本作においてボーカル、シンセサイザー、ギターを担当している上に、もう一人のギタリスト、トーマス・シュライバーとともにアルバムの全曲を作曲しています。まさにリーヒマンの独壇場ともいえるアルバムです。

 しかし、リーヒマンのソロ作「ヴンダーバー」を思い描いて購入した私としては、ちょっとびっくりしました。「ヴンダーバー」がインストゥルメンタルによる近未来プログレ・シンセ・ポップだったのに対し、こちらはもろに叙情的な哀愁のエレポップ、ボーカルも全開です。

 そのサウンドはアマチュアっぽいといいますか、英米のロックのスタイルを借りてきたものの、どうもしっかりは消化できていない風情です。そこが面白いです。さらに、リーヒマン特有の妙なシンセ感覚がそちらこちらにやはり顔をだします。

 そこに哀愁漂う旋律が翳りをつくっていて、ストリートマークにしか出せない不思議な世界を醸し出しています。当初はその違いに驚いた私ですけれども、すぐに彼らの世界のとりこになりました。B級には違いないのですが、B級はツボにはまると強いんです。

 以前、ギター職人マーティ・フリードマンがタモリ俱楽部で「ドイツのバンドの英語は、普通の米国人は使わない言い回しが多い」と言っていましたが、ストリートマークはまさにそれです。その微妙なずれというものはサウンドにも及んでいる気がします。

 当初のタイトル曲「アイリーン」や後のタイトル曲「ドリームズ」はプログレ的力作ですが、私の一押しは途中で別の曲が挿入される「クレイジー・ノーション」と、静と動を一曲に押し込めた「シー・オブ・メルティッド・レッド」です。40年以上たっても頭から離れません。

*2012年6月19日の記事を書き直しました。

Dreams / Streetmark (1977 Sky)



Songs:
01. Crazy Notion
02. Passage
03. Sea Of Melted Lead
04. Tomorrow
05. Eileen
06. Choral
07. Dreams
(bonus)
08. Streaming

Personnel:
Wolfgang Riechmann : vocal, synthesizer, guitar
Dorothea Raukes : keyboards, chorus
Thomas Schreiber : guitar, chorus
Manfred Knauf : bass
Hans Schweiß : drums, percussion