$あれも聴きたいこれも聴きたい-Zappa13
 「人生で重要なことは生きることである。他のことは政治に過ぎない」。私の大好きな言葉です。確か科学者の言葉ですが、残念ながら誰の言葉か忘れてしまいました。人生や世界にむやみに意味づけを求めない。私の人生哲学そのものです。

 フランク・ザッパ先生率いるマザーズのライヴ・アルバム「ジャスト・アナザー・バンド・フロムLA」のテーマは「生きているていうことはクソ凄いことだ」というものです。先生自身がMCでそう発言しています。そう思わない奴は出ていけ、とまで。かっこいいです。

 そんな素敵なテーマの本作品は、1971年8月7日にロサンゼルスで収録されたライヴ・アルバムです。「フィルモア・ライヴ」からわずか2か月後の公演です。キーボードのボブ・ハリスが見当たりませんが、それ以外は全く同じメンバーによるライヴです。

 わずかに2か月の隔たりなのですが、こちらにはA面全部を使ったミュージカル超大作「ビリー・ザ・マウンテン」が収録されていますから、アルバムとしてのあり様がまるで異なります。B面は4曲はいっていますが、こちらもとにかく言葉数が多い。言葉の洪水です。

 「ビリー・ザ・マウンテン」は、主人公のビリーとそのガールフレンドのイーセルの物語です。このカップル、山とそこに生えている木です。カップルは休暇を過ごすために出かけますが、政府はビリーを徴兵しようとして...といった変ったお話です。

 話の内容がそもそもシュールですし、矢継ぎ早に繰り出される言葉の数々は当時のロスに住んでいた人じゃないと分からないだろうと思われるネタが満載です。言葉の壁というよりも、生活圏の違いです。ローカルな漫才をよその土地の人が分かるかという話です。

 もはや理解することを諦めて、セリフの数々を音楽として楽しむのでよいと思います。そうしていると、ところどころ、馴染みのメロディーが出てきたりするので、ちょっと嬉しくなります。それにハワード・ケイランとマーク・ヴォルマンの声はやはり素敵ですしね。

 B面に移ると、「コール・エニイ・ヴェジタブル」や「ドッグ・ブレス」といったお馴染みの曲も出てきますが、こちらも言葉はかなり増量されています。自由自在な寸劇風にステージは進んでいきます。観客と一体になって盛り上がっていくさまは楽しいものです。

 こちらでは「マグダレーナ」が凄いです。自分の娘に迫る「チビでヨボヨボの男」というとんでもない話ですが、男が繰り出すマシンガン・トークが鬼気迫ります。この曲にはストラヴィンスキーのバイオリン協奏曲が引用されていたりするので油断できません。

 この作品はとにかく言葉の比重が大きいです。そのメッセージは「生きるって凄い」ですから、本当に素敵です。もちろん演奏も充実しています。ギター・ソロもひっそりと入っていますし、腕達者なメンバーによる的確な演奏は聴きごたえ十分です。

 この時期の先生は、大そう充実したステージを夜な夜な繰り広げていたのだなと今さらながら感心してしまいます。マザーズの一つの完成形でしたけれども、この幸せは長く続かず、タートル・マザーズの作品はここまでとなってしまいました。

Just Another Band From L.A. / The Mothers (1972 Bizarre) #014

*2012年6月5日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Billy The Mountain
02. Call Any Vegetable
03. Eddie, Are You Kidding?
04. Magdalena
05. Dog Breath

Personnel:
Frank Zappa : guitar, vocal
Mark Volman : vocal
Howard Kaylan : vocal
Ian Underwood : winds, keyboards, vocal
Aynsley Dunbar : drums
Don Preston : keyboard, mini-moog
Jim Pons : bass, vocal