あれも聴きたいこれも聴きたい-Georg Solti 麻ー辣ー、魔ー羅ー、マーラー。どう表記しても強烈な印象を与える響きです。マーラー!

 マーラーは、私の世代ですと、音楽の授業で習った記憶がありません。小中学校の授業では、後ろの方がおろそかになるので、私たちの頭の中には、歴史的意義以上に縄文時代や弥生時代のことが深く刻印されています。音楽も同じようにヴィヴァルディの「四季」が異常に人気です。

 それから考えると、時代が下ってくるので印象が薄いのかとも思いますが、それだけではありません。マーラーが大きなブームになるのは70年代後半以降のことです。私が高校に入ってからです。小中学校時代にはそれほど人気がなく、軽視されていたのではないでしょうか。

 70年代後半以降の大ブームの中で、この交響曲第5番はマーラー作品の中でも1,2を争う人気を博したのだそうです。私はクラシック音痴なので、そんなことは全然知りませんでした。

 しかし、こうやって聴いておりますと、「おやっ」と思うところが多い。耳になじみがあるんですね。まず、この作品の第四楽章アダージェットはヴィスコンティの「ベニスに死す」で全編にわたって流されています。

 余談ですが、原作者トーマス・マンは、「ベニスに死す」の主人公の名前をマーラーからとってグスタフとした上、主人公アッシェンバッハはマーラーを模した容貌にしているということですから、ヴィスコンティも粋なことをしたものです。ぴったりですしね。

 話がそれましたが、そこだけではなく、他の楽章のさまざまな断片に聴き覚えがあるんです。さすがに人気作曲家です。それに何と言っても派手。使い勝手がよい音楽です。冒頭の第一楽章葬送行進曲からして、勇壮かつ厳格な響きですから、頑固おやじのテーマにはぴったりです。

 第四楽章は、作曲中に結婚した妻に捧げたものだと言われており、「ベニスに死す」にぴったりな静かな曲です。しかし、他の楽章はやたらと派手です。暗い葬送行進曲から始まって最後は明るいロンドで終わるということで、解説では「苦悩を経て歓喜へ」と記されています。

 指揮のゲオルグ・ショルティは、とにかく楽器をよく鳴らすスタイルだということですが、それはおそらくマーラーの演奏に秀でていたこととも関係があるんでしょう。

 これは70年の録音ですが、紙ジャケ化されているだけあって、名盤として語りつがれているようです。ショルティがシカゴ交響楽団の音楽監督に就任して間がない頃の作品です。見事に楽団を立て直したと評価されていますが、このマーラーも大きく貢献したのでしょう。

 ベートーベンやモーツァルトくらいしか知らない私ですが、マーラーを聴いてみて、むしろ普通にぼーっとクラシックとしてイメージするのはこっちの方かなと思いました。世紀の変わり目に作曲された後期ロマン派の音楽は西洋古典音楽の一つの到達点でもありますからね。

 起伏の大きい、とにかく派手な楽曲を、びりびりと鳴らすシカゴ交響楽団。ザ・クラシックです。

Georg Solti, Chicago Symphony Orchestra / Mahler : Symphony No.5 in C# Minor (1970)