あれも聴きたいこれも聴きたい-かまやつひろし もう随分昔といっても90年代のことになりますが、友人と見に行った浅川マキさんのコンサートに、「ムッシュ」ことかまやつひろしがゲスト出演しておりました。

 もともとコンサートは山木秀夫のドラムスだけをバックに浅川マキさんが歌うセットで、フリー・フォームな歌と演奏が続いていました。

 そんな中、アコースティック・ギター片手にムッシュが登場。浅川マキがムッシュを紹介すると、山木のドラムとマキさんの歌が始まり、いよいよムッシュの出番です。もともと何だか居心地が悪そうな登場の仕方でしたが、なかなか二人の掛け合いに入るきっかけがつかめない様子でした。

 意を決して、ジャキッとワンストローク。

 飛び出してきた音は、もろに70年代ブリティッシュ・ロックでした。フェイセスみたいな感じの音です。思わず笑ってしまいました。その後もムッシュはブリティッシュ・ロック風ギターを、フリー・ジャズ風の二人に申し訳なさそうに弾いていました。

 二人はそんなムッシュを暖かく見守りつつ、とても楽しげな演奏でした。途中、設けられたムッシュのソロ・コーナーでは、まさかとは思いましたが、「何とかなるさ」を歌っていました。心情の吐露だったんでしょうね。

 私はこのコンサートを機にムッシュが大好きになりました。実に愛すべき男です。それ以来、私の中での彼のキーワードは「愛すべき不器用」です。

 この作品は実にバラエティに富んでいるのですが、彼の不器用さが全体を見事に統一しています。名曲「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」を始め、幅広い音楽性を遺憾なく発揮した作品です。しかし、どんな演奏、どんな曲調でもこの人らしい不器用さが歌に現れていて、これまた愛してしまいます。

 とてもタイトでソリッドなタワー・オブ・パワーのホーン演奏をバックに、このなんともいえない不器用な歌い方。かっこいいですね。細野晴臣、井上陽水、吉田拓郎、遠藤賢司、りりぃ、大滝詠一、加藤和彦など豪華な作家陣を動員できるところも彼のこの不器用さが生む人徳なんだろうと思います。

 ところで、この作品のタイトルにもなったよしだだくろう作の「我が良き友よ」は大ヒットしました。戦前のバンカラ学生を題材にしたこの歌が大ヒットしたということは、世間にとって、ムッシュかまやつのキーワードは実は「汚い」だったことを示しているのかもしれません。

 この歌は見事に彼にはまりました。小ぎれいなよしだたくろうが歌ったってこれほどの大ヒットはしなかったでしょう。

 愛すべきムッシュかまやつ。いつまでもがんばってほしい。

あゝ我が良き友よ / かまやつひろし (1975)

この宮崎あおいは本当にかわいいですよね。