あれも聴きたいこれも聴きたい-Zappa11
 ずいぶんシンプルなジャケットですが、不思議に味わいがあります。フランク・ザッパ先生のジャケットの多くを手掛けるカル・シャンケルの作品です。シャンケルのデザインするジャケットは一筋縄ではいきません。いつもこちらの美意識のアップデートを迫られます。

 「フィルモア・ライヴ71」は、元タートルズの二人を擁する通称タートル・マザーズの本格的なデビュー盤です。「チャンガの復讐」はザッパ先生のソロ名義でしたけれども、今回はしっかりとマザーズの名義です。そして、意外なことにザッパ先生初のライヴ・アルバムです。

 おまけにこのステージには、ジョン・レノンと一緒に立っており、二人が共演した部分はレノンのアルバム「サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ」に収録されました。このジャケットを朱書きで訂正した素敵な内袋にレコードが収められるという粋なデザインでした。

 ここでのマザーズは、フロー&エディーことハワード・ケイランとマーク・ヴォルマンのタートルズ組、お馴染みのイアン・アンダーウッド、エインズレー・ダンバーが中心です。ベースにはジム・ポンズ、キーボードはボブ・ハリスと懐かしいドン・プレストンが起用されています。

 タートル・マザーズの特徴はボーカル二人の漫才といいますか、小芝居といいますか、その歌謡ショー的な佇まいです。もちろん演奏力はありますから、室内楽的器楽曲も充実していますが、ステージの魅力はそのダイアローグを中心にした小芝居です。

 そのテーマはロック・スターの日常、グルーピー編でしょうか。このグルーピーはなかなか気位が高くて、ロック・スターにとっても簡単な相手ではありません。「あんたたち私たちをどんな女だと思ってんの」という曲名が物語っている通りです。

 グルーピーたちは、ちゃんっとチャート・インした大ヒット曲をもったバンドしか相手にしないと言い張り、そんなこんなのやり取りが続きます。引っ張ったあげくに、タートルズの大ヒット曲「ハッピー・トゥゲザー」が出てきて、歌謡ショーは一段落します。

 この「ハッピー・トゥゲザー」の破壊力が凄まじいです。キャッチーなメロディーは大ヒット曲ならではです。ザッパ先生の作品も完成度が高いのですが、ヒット・チャート向きではありません。その中に混じると何だかとても違和感があります。ちょっと居心地が悪い。

 バンドは少人数の編成で、特にギターがザッパ先生だけという珍しいものですが、その編成で「僕の住んでいた小さな家」や「ピーチズ・アン・レガリア」、「ウィリー・ザ・ピンプ」などの代表曲を再現していきます。ここに小芝居曲が交じり合う。そこはいいのですが。

 演奏はいつもの通り大変味わいがあります。複雑なアンサンブルも演奏力の高い少数精鋭で、なかなかかっこいいです。ギターの音もこれまたナイスです。パーツパーツを見ていけば、とても充実しているのですが、いかんせん「ハッピー・トゥゲザー」が...。

 とはいえザッパ先生の作品に駄作はありません。本作品も水準以上の作品であることは間違いなく、レノンのアルバムと合わせて聴くと、ザッパ先生の楽しいライヴが堪能できる仕掛けです。あちらで初めてザッパ先生に触れた人はどう思ったのでしょうか。

Fillmore East, June 1971 / The Mothers (1971 Bizzarre) #012

*2012年4月2日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Little House I Used To Live In
02. The Mud Shark
03. What Kind Of Girl Do You Think We Are?
04. Bwana Dik
05. Latex Solar Beef
06. Willie The Pimp
07. Do You Like My New Car?
08. Happy Together
09. Lonesome Electric Turkey
10. Peaches En Regalia
11. Tears Began To Fall

Personnel:
Frank Zappa : guitar, dialog
Mark Volman : lead vocals, dialog
Howard Kaylan : lead vocals, dialog
Ian Underwood : winds, keybord, vocal
Aynsley Dunbar : drums
Jim Pons : bass, vocals, dialog
Bob Harris : 2nd keyboard, vocals
Don Preston : mini-moog