あれも聴きたいこれも聴きたい-Drake 情けないなあ、というのが初めて聴いた感想です。ヒップホップのアーティストと言えば、どうしても強面のイメージが強いのですが、このドレイクは実に情けない。くよくよする性格なんじゃないでしょうか。ぐちぐちと思いのたけを酒に乗せて吐き出すかのようなラップが情けない。情けなさの魅力、それがこの作品にはあふれ出ています。

 ドレイクは、カナダ出身の俳優兼ラッパーです。俳優と歌手はさほど兼業の相性はよくないのではないかと思いますが、ラッパーと俳優はウィル・スミスの例を持ち出すまでもなく、なぜか相性ぴったりな気がします。リズム感の関門をクリアしてしまえば、ラップは歌を演じるようなところがあるからでしょうか。

 この作品はドレイクの2作目。公式デビュー盤が大ヒットした後、1年とちょっとのインターバルで発表されました。いきなり全米1位となり、見事なヒットが続いています。今、ヒップホップ界をけん引している存在なのですね。

 最初にも申し上げた通り、ヒップホップのステレオタイプなイメージとは随分異なります。ビートをさほど前面に出すわけでもなく、音数が少ない、どちらかと言えば、暗めの欝なトラックが全体を覆っています。そんなトラックに乗せて、ドレイクがモノローグ調にラップを極めます。失恋を綿々と引きずったような未練たらたらな雰囲気が俄然情けなさを醸し出しています。

 まあ、攻撃的なラッパーを思い浮かべるからそんな風に思うだけなのかもしれません。むしろ、ニーヨとか、アッシャーのようなR&B系の人を思い浮かべると、ちょうど中和されていいのでしょう。攻撃するラップではなく、内に引きこもる傾きを持ったラップ。そこが新しいのかもしれません。

 ヒップホップ系のアーティストの作品ではお約束のゲスト陣は豪華です。元カノだと本人は思っているが、向こうは実はそうでもないのではないかという疑いがあるスーパースター、リアーナを筆頭にいろんなアーティストが参加しています。デビュー作でのヒットを引っ提げて、コミュニティーに地歩を固めた姿がよくわかります。みんなファミリー。

 この作品での話題の一つは「マービンズ・ルーム」でしょう。電話で元カノに絡む歌ですが、マービン・ゲイが「離婚伝説」を作ったスタジオで録音されています。情けないアーティストの上位に位置するマービン・ゲイへのオマージュになっています。この曲にドレイクの目指したものが如実に表れていると言ってよいでしょう。

 ドレイクは今やヒップホップ界を引っ張る存在になっているということです。ヒップホップ界も随分様変わりしたものですね。軟弱になったと憤っている人もいるんじゃないでしょうか。私自身は情けない人間ですから、こういう世界は結構好きです。しかし、刺激に欠けると言われればその通りだなと思わないわけでもありません。
 
 ドレイクは俳優として若い頃から活躍していたということですが、あまりぎらぎらした感じはしません。都会的に洗練された草食系男子だと言ってよいのではないでしょうか。英語も分かりやすいですし、さらりと聴けてしまうところが、少し残念です。

 もっともっと情けない感じになると面白いのではないでしょうか。

Take Care / Drake (2011)