あれも聴きたいこれも聴きたい-Asia
 時代遅れのスーパーグループかと思われてもいたにもかかわらず、特大ヒットを記録したエイジアのデビュー・アルバムです。邦題はこれで「エイジア」と読ませます。この頃流行っていた暴走族漢字が使われているところに懐かしさを感じます。

 エイジアは、イエス、キング・クリムゾン、EL&Pと、プログレッシブ・ロック界の超大物バンドの出身者が結成したスーパーグループです。本作品はこの布陣で、出身バンドも未経験の9週連続全米1位、世界で1500万枚を越えるメガヒットを記録しました。

 結成の経緯はイエスからメンバーが抜けてスティーヴ・ハウとジェフリー・ダウンズの二人が残ってしまったところに、イエスの元マネージャーがジョン・ウェットンとのコラボをもちかけ、さらにカール・パーマーが加わったという説があります。イエスの後継バンドでもあるわけです。

 1980年代に入る頃には、いわゆるプログレッシブ・ロックはピンク・フロイドを除けば元気を失っておりましたから、その代表格たるバンドのメンバーによって結成されたエイジアに期待を寄せる人もいたものの、ほとんどの人は期待していなかったと思います。

 結成当時のインタビューでは、ギターのスティーヴ・ハウを除く3人がやたらと「時代の精神」を語っているのをみて、私などは辛気臭いバンドになりそうだと感じておりました。しかし、サウンドを耳にして驚きました。きらきらと輝く80年代サウンドが出てきたのです。

 もともとジョン・ウェットンなどは元キング・クリムゾンというよりも、元ロキシー・ミュージックですし、元ユーライア・ヒープでもあります。ジェフリー・ダウンズに至ってはイエスではあるものの、何といっても「ラジオスターの悲劇」のバグルスの人です。

 ハウにしてもパーマーにしても、イエスやEL&Pのコンセプトを担っていた存在ではありません。達者な演奏技術でもって豊かなサウンドを作り出す人々によるバンドですから、時代の要請に対して、器用にそして軽やかに答えることができるのでしょう。

 アルバムはブルース臭の少ない、体臭の薄い端正なロックが並びます。ウェットンのボーカルもうまいとは思いますが、強烈な個性を発揮するわけではなく、見事にサウンドにマッチしています。曲はコンパクトにまとまっており、ある意味では満点のできでしょう。

 私としてはやはりハウのギターが気になります。結成時のインタビューでもただ一人、多くのギターを背景に、今回はどのようにギターを弾いたのかという話ばかりを嬉しそうにしていました。まさにギター職人、そのはつらつとした演奏がアルバムを引っ張っています。

 アルバムからは「ヒート・オブ・ザ・モーメント」のトップ10ヒットが誕生しました。ウェットンとダウンズのコンビによるキャッチーな名曲です。この曲を始め、アルバムの楽曲はキャッチーなメロディーを当時流行りのサウンドに乗せた手堅い曲ばかりでした。

 MTV全盛時代でもあり、エイジアの楽曲はあまりセンスのよろしくないMVとともにテレビから繰返し流れてきました。そんな経緯もあり、時代とともにある、強烈に時代を感じるアルバムになりました。この作品を流しておけばたちまち1982年に逆戻りしてしまいます。

Asia / Asia (1982 Geffen)

*2012年3月3日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Heat Of The Moment
02. Only Time Will Tell 時へのロマン
03. Sole Survivor 孤独のサヴァイヴァー
04. One Step Closer
05. Time Again
06. Wildest Dreams この夢の果てまで
07. Without You
08. Cutting It Fine 流れのままに
09. Here Comes The Feeling ときめきの面影

Personnel:
Geoffrey Downes : keyboard, vocal
Steve Howe : guitar, vocal
Carl Palmer : drums, percussion
John Wetton : vocal, bass