あれも聴きたいこれも聴きたい-Zappa10
 「あああああー!!ぎゃー!!」、カル・シャンケルが手がけるマザーズのアルバム・ジャケットはどれも最高です。ぐしゃぐしゃのオブジェではなく、ポートレート写真をもってくるというポップスの王道ジャケットなのにこのえぐさったらありません。かっこいいです。

 この作品はフランク・ザッパ先生のソロ名義のアルバム「チャンガの復讐」です。ここには大きく分けて二つのバンドの演奏が収録されています。一つは、マザーズを解散した後に結成されたホット・ラッツなるバンド、もう一つはいわゆるタートル・マザーズです。

 前者は「ホット・ラッツ」に参加していたベテラン・ジャズ・ベーシストのマックス・ベネット、ジェフ・ベック・グループにいたドラムのエインズレー・ダンバー、マザーズからイアン・アンダーウッドとシュガー・ケーン・ハリスに先生を加えた恐るべき5人組です。

 タートル・マザーズはマザーズのリユニオン・ツアーを観に来た元タートルズのボーカル、フロー&エディーことハワード・ケイランとマーク・ヴォルマンをボーカルに据えた新生マザーズを指します。母体はオリジナル・マザーズではなく、ホット・ラッツです。

 より正確にいえば、ホット・ラッツからベネットとハリスを除いて、マザーズの前座を務めた経験のあるジェフ・シモンズと、後にフュージョン・サウンドで大活躍することになるジョージ・デュークが加わっています。このバンドはザ・マザーズを名乗って活動しました。

 二つのバンドの曲は本作品の中に混在していますが、ホット・ラッツがインストゥルメンタル曲、タートル・マザーズがボーカル曲とくっきり分かれています。しかも、後者は単なるボーカル曲ではなく、言葉数の多いダイアローグが含まれていて芝居っ気たっぷりです。

 アルバムはホット・ラッツ組の「トランシルヴァニア・ブギー」で始まります。ザッパ先生のこれまであまりなかったタイプの音のギターがうなる激しいロック曲です。これに続くのは「ロード・レディーズ」、フロー&エディーがいきなり本領を発揮するユーモラスなボーカル曲です。

 さらに植草甚一先生が大好きだったということで日本でもおなじみになった「20本の短い葉巻」が続きます。煙が立ち込めるジャジーな空気の中でアンダーウッドのピアノが美しい名曲です。こうして表情の異なる曲が混在することで大変に忙しいアルバムになっています。

 このバンドについて、先生は、「エインズレー・ダンバーが叩いているからリズムがロック的だ」し、特にタートル・マザーズは「グループ全体が聴衆とコンタクトしている」し、「グループとしての精神がある」と絶賛しています。技術的にもオリジナル・マザーズを凌駕していますし。

 そんなわけで本作品はオリジナル・マザーズ解散後の新しいザッパ先生の記念すべき第一弾なのですが、一般的な評判は今一つです。オリジナル・マザーズとは魅力のベクトルが変わったことと、歌詞が社会批判からロック風刺に移って来たことが要因なのでしょう。

 しかし、西部劇のようだと評される「チャンガの復讐」を始めとする火の出るようなホット・ラッツ組のインタープレイと、タートル・マザーズ組の猥雑極まりない演劇的な歌の数々は素晴らしいものがあります。ザッパ先生に駄作なし、70年代のマザーズの始点となった傑作です。

Chunga's Revenge / Frank Zappa (1970 Bizarre) #011

*2012年2月15日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Transylvania Boogie
02. Road Ladies
03. Twenty Small Cigars 20本の短い葉巻
04. The Nancy & Mary Music
05. Tell Me You Love Me
06. Would You Go All The Way?
07. Chunga's Revenge チャンガの復讐
08. The Clap
09. Rudy Wants To Buy Yez A Drink ルディが一杯奢ってやるんだってよ
10. Sharleena

Personnel:
Frank Zappa : guitar, vocal, harpsichord, drum set, wood blocks, temple blocks, boo-bams, tom-toms etc.
***
The Phlorescent Leech & Eddie : vocal
(Eddie : rhythm guitar)
Ian Underwood : organ, rhythm guitar, piano, electric piano, pipe organ, electric alto sax with wah-wah-pedal
Jeff Simmons : bass, vocal
Max Bennett : bass
George Duke : organ, electric piano, vocal drum imitations, trombone
Sugar Cane Harris : organ
Aynsley Dunbar : drums, tambourine
John Guerin : drums