あれも聴きたいこれも聴きたい-Konkani ゴアはインドの西海岸にある州です。16世紀にポルトガルの植民地となり、インド独立後もしばらくはポルトガル領のままでした。61年にインドが武力でゴアを併合し、74年に公式にポルトガルが主権を放棄します。

 ゴアの人はその辺の事情を「インドの侵略」と冗談交じりで表現したりします。その言葉もわからないわけではありません。インド全体とはよほど違うリラックスした別世界になっています。特に北インドとは隔絶した世界です。

 亡くなった中村とうよう氏は、世界最古の大衆音楽はスリランカのバイラだと言っておられます。彼は大衆音楽を民族音楽や芸術音楽と区別する言葉として使用しており、異文化の出会うところに生まれた普遍性を持った人々のための音楽を大衆音楽だとしています。

 バイラはスリランカがポルトガルの植民地となったことから生まれました。入植したポルトガル人、連れてこられたアフリカ人、土着のスリランカ人それぞれの音楽文化が化学反応を起こして生まれた音楽、それがバイラでした。中南米の音楽のお兄さん的な存在になります。

 ゴアもスリランカと同じ時期にポルトガル領になりました。そうして同じようにコンカニと呼ばれる音楽が生まれました。コンカニとはゴアの土着の言語で、インドの公用語の一つとなっています。コンカニ語で歌われる歌ですね。

 発祥は古いですが、スタイルを確立するのは20世紀に入る直前ということになります。イタリアのオペラをコンカニ語に翻訳して自ら演じるようになったのが、コンカニ・オペラ、ゴアではチアトルと呼ばれます。そこから舞台歌謡として発展し、近所のムンバイに進出して、映画音楽とも融合していきます。

 このCDはドイツのトリコント・レーベルから出された、全盛期のコンカニ音楽のコンピレーションです。ムンバイで録音されているので、エキゾチックなインド映画音楽といった感じになっています。私の知っている現代のコンカニはよりラテンなので、とてもインドに聴こえます。8分の6拍子の曲が多いのが特徴でしょうか。

 コンカニの至宝サー・アルフレッド・ローズを筆頭に女性歌手ロルナ、リタ・ローズといった人々の名歌唱が収められています。解説で「インドで生まれた魅惑のポルトガル系南海歌謡」とされている通り、海を感じる歌謡です。広い海で世界はつながっていますが、それを感じさせてくれます。東南アジアや中南米、欧州、アフリカ。そんな地域の歌を想起させます。開かれた音楽なのですね。日本の戦前の歌謡曲を思わせもします。

 なかなか楽しく聴けますよ。ビデオはあるのかと思っていたら、結構ありました。コンカニと言えばこの人、アルフレッド・ローズを経験してみてください。かっこいいですね。

Konkani Songs - Music From Goa Made In Bombay (2009)