あれも聴きたいこれも聴きたい-Zappa08
 フランク・ザッパ&ザ・マザーズ・オブ・インヴェンションによるアルバム「バーント・ウィーニー・サンドウィッチ」です。ヒットした名作「ホット・ラッツ」に次ぐ作品ですけれども、あちらはザッパ先生のソロ作品です。マザーズ名義としては「アンクル・ミート」に続きます。

 タイトルにあるサンドウィッチの名にふさわしく、最初と最後のドゥーワップ調の曲がインストゥルメンタルの名曲たちを挟み込む構造になっています。中身はかなり複雑なネオクラシカルともいえる作風の曲が半分、そして名曲「俺が住んでいた小さな家」が半分です。

 前者の中にはザッパ先生が敬愛する現代音楽の作曲家イゴール・ストラヴィンスキーに捧げた曲が入っています。私はこの曲がきっかけでストラヴィンスキーに親しむようになりました。クラシック史の異端児ですけれども、ここから見ると実にクラシックです。

 本作品が制作された頃、ザッパ先生とマザーズの面々はツアーに明け暮れていました。そして、そのツアーで録音したさまざまな素材が本作品の元となっています。スタジオ録音にライヴ録音のギター・ソロを組み合わせるような手法も使われ始めています。

 しかし、本作品が発表された頃には、アンクル・ミート・マザーズないしは10人マザーズと呼ばれた初期マザーズは解散しています。まあ解散というよりも、ほとんどのメンバーがくびを宣告されたといった方が正確でしょう。この作品はマザーズの鎮魂のためでもありました。

 この時期のマザーズの面々は、後の超絶技巧を誇るザッパ・バンドのメンバーに比べると、テクニック的にはずいぶん劣ると言わざるを得ません。しかし、実に愛すべき個性的なキャラクターが揃っていますし、けっしてザッパ先生のワンマン・バンドではありませんでした。

 ファンの間でも高い人気を誇るバンドで、ザッパ先生は「大したバンドじゃなかったのに」と不思議がっています。ザッパ先生の思い描くサウンドを演奏するテクニックを必ずしも持ち合わせているわけではありませんでしたから、先生の気持ちも分からないではありません。

 ライナーノーツで後藤仁氏が、「あっちのジャンルに行きそうで行けないロックサウンド」と書いているのは実に言い得て妙だと思いました。現代音楽的な楽曲を演奏しているのに、ちょっと抜けた感じの漂うユーモラスなサウンドになっているのが素晴らしいです。

 とりわけグループのインディアン、ジミー・カール・ブラックのドラムのバタバタぶりがいいです。息つく暇もない演奏になりそうでならないのは彼のドラムに負うところが大きいかもしれません。とても愛おしいマザーズ・オブ・インヴェンションなのでした。

 アルバムの白眉は、何といっても「俺が住んでいた小さな家」です。名曲「キング・コング」にも比肩しうる大作で、イアン・アンダーウッドのピアノ、シュガーケーン・ハリスのバイオリン、ドン・プレストンのピアノに珍しいザッパ先生のオルガンとソロが続く圧巻の構成力です。

 「ホット・ラッツ」や「アンクル・ミート」の影に隠れて今一つ目立たないアルバムですけれども、なかなかどうして名作です。ルーベン&ザ・ジェッツのドゥーワップとアンクル・ミートのロック室内楽が見事に同居していて、マザーズの墓碑銘にふさわしいアルバムになっています。

Burnt Weeny Sandwich / The Mothers Of Invention (1970 Bizarre) #009

*2012年1月11日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. WPLJ
02. Igor's Boogie, Phase One イゴールのブギ その1
03. Overture To A Holiday In Berlin ベルリンの休日 序曲
04. Theme From Burnt Weeny Sandwich
05. Igor's Boogie, Phase Two イゴールのブギ その2
06. Holiday In Berlin, Full-Blown ベルリンの休日
07. Aybe Sea アイベ海
08. The Little House I Used To Live In 俺が住んでいた小さな家
09. Valarie

Personnel:
Frank Zappa : guitar, vocal
Lowell George : guitar, vocal
Roy Estrada : bass, vocals
Don Preston : keyboards, synthesizer
Ian Underwood : keyboards, clarinet, piano
Buzz Gardner : trumpet
Bunk Gardner: woodwinds
Motorhead Sherwood : sax, vocal
Jimmy Carl Black : drums, trumpet, vocal
Art Tripp : drums, percussion
Sugar Cane Harris : violin
Gabby Furggy (Janet Ferguson) : vocal