あれも聴きたいこれも聴きたい-AlexandreTharaud おかげさまで昨日をもって、結核の治療薬服用を終えました。半年間。達成感があります。そんな気分で今日はエリック・サティを聴きました。外は寒いですが、暖かい室内で冬の日差しを浴びながら聴くサティは素敵です。

 音楽評論家の小沼純一さんも示唆されていますが、私にとってサティは池袋西武にあったアール・ヴィヴァンと深く結びついています。芸術書中心の書店ですが、現代音楽のLPの品ぞろえも豊富でした。アートな空気のお店で、よく写真集やLPを買いにいったものです。そこではよくサティがかかっていたような気がします。80年前後のことです。

 音楽の授業ではサティの名前など聴いたことがありませんでした。私がサティの音楽を知るようになったのは、ブライアン・イーノが環境音楽をやり始めた際に、かつて「家具の音楽」を提唱した人がいた、それがサティだ、という経緯です。ロックの方から近寄って行ったわけです。

 私にはクラシックの音楽理論などは全く分かりませんが、サティの作る音楽はそうした決まりに従っていなさそうだということは何となく分かります。そういう意味ではクラシック音楽の門外漢の私にもとても親しみやすい作曲家です。

 アレクサンドル・タローは68年生まれのフランスのピアニストです。現代フランスを代表するピアニストの一人と言われているようです。そんな彼の09年1月に発売されたとんでもなくおしゃれなジャケットに包まれた素敵なアルバムです。フランスはここら辺の底力がすごい。

 この作品は二枚組になっていて、最初の一枚はピアノのソロ、二枚目はデュエット曲です。ソロの方は、サティの代表作「グノシェンヌ」全6曲が中心です。それぞれの間に別の曲を入れる形で全42曲が収録されています。同じく代表作の「ジムノペディア」は1曲だけです。「(犬のための)ぶよぶよした本当の前奏曲」や「最後から二番目の思想」「乾からびた胎児」などの楽曲が収められています。サティの曲はタイトルが面白いですね。ラグタイムの曲「ピカデリー」も含まれています。

 注目は「メデューサの罠」という曲です。これはサティが書いた喜劇作品のための音楽です。この劇では藁をつめた猿がピアノ曲にあわせて動き回る、その音を再現しようと、初演の際にはピアノの弦の間に紙をはさんで演奏されたという逸話が残っています。タローはここでそれを再現しています。プリペアード・ピアノとしては世界最初のものですね。かさかさいらつく音ですが、面白いことこの上ないです。

 二枚目は連弾、バイオリン、歌、トランペットとのデュオです。こちらも「梨の形をした3つの小品」、「右や左に見えるもの(眼鏡無しで)」「風変わりな美女」などが収められています。歌曲もバイオリンも素敵ですが、トランペットが面白いです。「再発見された像」という曲ですが、トランペットの活躍はほんの少し、10数秒でしょうか、それでもくっきりと刻印が残ります。

 録音は笑いに包まれながら、大変気持よく進んだそうです。その感じは伝わってきます。しっかりと緊張感にあふれているのですが、どこか心を浮き立たせるものがあります。漂々としたサティの魅力が全開です。

 ただ、「グノシェンヌ」はどちらかと言えば高橋アキさんの演奏の方が好きですけどね。

Avant-dernières Pensées / Alexandre Tharaud (2009)