あれも聴きたいこれも聴きたい-GratefulDead13
 グレイトフル・デッドの傑作「テラピン・ステーション」です。「ブルース・フォー・アラー」と本作品の間にはライヴ盤「スティール・ユア・フェイス」があるのですが、ボックス・セットからは除外されています。ファンの間でも「スティール・ユア・マネー」と呼ばれた不本意な作品でした。

 しかし、自分たちのレコード会社から不本意な作品の発表を余儀なくされるとは何とも言いようのない始末です。結局、グレイトフル・デッド・レコードは経営に行き詰ってしまい、デッドはコロンビアを追い出されたクライブ・デイヴィスの新レーベル、アリスタに身を委ねます。

 一方、ライヴ休止を宣言していたデッドは、1976年1月に「休暇を続けるのはとても疲れるので、また旅をすることにした」とライヴ活動再開を宣言しました。結局、メンバーの総和以上の何者かであるアナーキーなデッドを続けるのが一番よいという結論に達したのでした。

 自身のレーベルはたたんてしまいましたけれども、心機一転してライヴ活動を再開したデッドは制作意欲に満ち溢れていました。本作品はその結果として誕生したアルバムで、一般に人気も高く、久しぶりにゴールド・ディスクに輝きました。

 タイトル曲はLPのB面全てを使った大曲です。この曲は、ジェリー・ガルシアとロバート・ハンターのコンビが全く別々に書いていた曲と歌詞が完全にマッチしていたというエピソードに彩られています。二人は霊感でつながっていたのでしょう。いい話です。

 組曲形式になっており、途中にミッキー・ハートとビル・クルーツマンによるつなぎが入ります。さらにハートがハンターの歌詞の一部に曲をつけており、しっかりバンド全体の作品になっています。ここがグレイトフル・デッドの強みなのでしょう。

 この大作に隠れそうですが、ボブ・ウィアの「エスティメイテッド・プロフェット」はいかにもデッドらしい名曲ですし、フィル・レッシュも「パッセンジャー」で健在ぶりを示しています。A面にはガルシアの曲は入っておらず、活動を再開したデッドの全員野球ぶりがまぶしいです。

 ダナ・ゴッドショーは本作品で初めて自作曲「サンライズ」を提供し、ボーカルを聴かせます。ストリングスが入ったまるでデッドらしくない曲で、アルバムの中では異彩を放っています。ストリングスは「テラピン・ステーション」にも加えられました。キース・オルセンの仕業です。

 アリスタの条件の一つに外部プロデューサーを起用せよというものがありました。デッドの連中も面白がってそれを受け、白羽の矢が立ったのがフリートウッド・マックで名をはせたオルセンだったというわけです。10年ぶりの外部プロデューサーは概ねいい仕事をしています。

 しかし、オルセンがポール・バックマスターを迎えてロンドンで加えたストリングスとコーラスは賛否両論を巻き起こしました。メンバーたちも驚いたようです。その後のライヴで大きな役割を果たすこの曲ですが、やはりストリングスを交えないライヴの方が人気が高いです。

 そんな大きな議論があるにもかかわらず、本作品の人気は高いです。何もかもが吹っ切れたような感触で、わだかまりなく新たなデッドを楽しめるアルバムだということです。経営学の教科書にのる運営の仕方もこの頃から本格化してきます。安定の活躍が始まります。

Terrapin Station / Grateful Dead (1977 Arista)

*2011年12月12日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Estimated Prophet
02. Dancin' In The Streets
03. Passenger
04. Samson & Delilah
05. Sunrise
06. Terrapin Station Part 1
Lady With A Fan
Terrapin Station
Terrapin
Terrapin Transit
At A Siding
Terrapin Flyer
Refrain
(bonus)
07. Peggy-O (instrumental studio outtake)
08. The Ascent (instrumental studio outtake)
09. Catfish John (studio outtake)
10. Equinox (studio outtake)
11. Fire On The Mountain (studio outtake)
12. Dancin' In The Street (live)

Personnel:
Bob Weir
Phil Lesh
Jerry Garcia
Donna Godchaux
Keith Godchaux
Bill Kreutzmann
Mickey Hart
***
Paul Buckmaster : orchestral arrangement
The Martyn ford Orchestra conducted by Martyn Ford
The English Choral conducted by Robert Howes
Tom Scott : lyricon, sax