あれも聴きたいこれも聴きたい-GratefulDead12
 グレイトフル・デッドは1974年10月に行ったウィンターランドを最後にしばらくライヴ活動を休止してしまいました。いわゆる「ハイエイタス」、裂け目の時期です。ちなみにこの言葉には別の意味もあるようですが、そこはご想像にお任せします。

 ハイエイタスは1976年6月まで続きます。大した長さではありませんけれども、ツアーを身上としているバンドですから、デッド・ヘッズにとっては永遠にも等しい長さに感じられたことでしょう。そもそも休止とは発表されておらず、このまま終わってしまう可能性もありました。

 しかし、この間もバンドはチャリティーへの参加など人前で演奏していましたし、何よりも音楽そのものを辞めたわけではないことは本作品「ブルース・フォー・アラー」が証明しています。本作品はハイエイタス中の1975年6月から7月にかけてスタジオで制作されました。

 ここでのデッドにはミッキー・ハートが戻ってきました。裏ジャケットにはハートを除く6人しか描かれていませんけれども、確かにハートは参加しています。彼はウィンターランドでの最後のコンサートにサプライズ出演して、そのままバンドに残ったのでした。

 ハートを加えた7人のメンバーは、本作品の制作にあたり、初心に返って、全く何も用意せずにスタジオ入りしました。ジェリー・ガルシアは「何にも持ち込まずに毎日集まってレコードを作ろう」と呼びかけ、とにかくバンド全体で音楽を作ることを目指しました。

 ジャム・セッションを続け、その中から気に入ったところを残していって、それを発展させていく手法です。本作品のボートラにはその様子がよく分かるインストゥルメンタルのアウトテイクが5曲、全部で30分近く収録されています。雰囲気がよく分かります。

 その中から、後にライヴの定番となるポップな名曲「フランクリンズ・タワー」や「ミュージック・ネヴァー・ストップ」などが生まれるのですから面白いものです。さすがはデッド、自由に演奏をしていてもしっかりした曲の種がしっかりとまかれています。

 一方で、表題曲「ブルース・フォー・アラー」はかなり実験的です。三部構成になっており、最初と最後がコーラスを中心としたボーカル曲でミドル部分がインストゥルメンタルです。ボーカル部分はまるでレジデンツのような灰汁を抜いたパフォーマンスです。いつもと違います。

 インストゥルメンタル部分も大らかなぽわんぽわんした演奏とはほど遠く、若干理屈っぽくたたみかける演奏です。ライヴ向きとはとてもいえない曲で、発表の年である1975年にほんの数回しかライヴでは演奏されていません。楽しそうではありますが。

 この曲の歌詞はロバート・ハンターによればサウジアラビアのファイサル国王の逝去に触発されたものでほとんど即興で書かれています。神の意志と人類の破壊的な誤解を描いており、9.11を思わせます。ハンター本人も後にそのように語っています。

 デッドの作品群の中ではほんの少し異色の作品です。緩めの脱力レゲエもあればダナ・ゴッドショウが初めてしっかりとボーカルを聴かせる曲もあり、さまざまな工夫も感じられます。ライヴから解き放たれて一時的な解放感を味わうデッドのデトックス・アルバムです。

Blues For Allah / Grateful Dead (1975 Grateful Dead)

*2011年12月8日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Help On The Way / Slipknot!
02. Franklin's Tower
03. King Solomon's Marbles
Part I : Stronger Than Dirt
Part II : Milkin' The Turkey
04. The Music Never Stopped
05. Crazy Fingers
06. Sage & Spirit
07. Blues For Allah
Sand Castles & Glass Camels
Unusual Occurrences In The Desert
(bonus)
08. Groove #1 (instrumental studio outtake)
09. Groove #2 (instrumental studio outtake)
10. Distorto (instrumental studio outtake)
11. A To E Flat Jam (instrumental studio outtake)
12. Proto 18 Proper (instrumental studio outtake)
13. Hollywood Cantata (studio outtake)

Personnel:
Jerry Garcia : guitar, vocal
Keith Godchaux : keyboards, vocal
Donna Godchaux : vocal
Bill Kreutzmann : drums, percussion
Phil Lesh : bass, vocal
Bob Weir : guitar, vocal
Mickey Hart : percussion, crickets
Robert Hunter : lyrics
***
John Barlow : lyric
Steven Schuster : reeds, flute