あれも聴きたいこれも聴きたい-Zappa05
 若い頃を懐かしんで喜んでいる人の姿を見ているのは、その人がやたらと講釈を垂れたりしなければ、心温まるものです。多くの場合、自分には全く共有できない世界を懐かしんでいるわけですが、心根は分かりあえるというものです。

 私もアメリカン・グラフィティの世界には自分の青春を重ねて胸がキュンキュンしたものです。実際には時代も場所も私の青春時代とは全く重なりません。私が高校時代に聴いていたのはもっぱら洋楽でしたから、いずれにせよ実際の生活とは縁遠かったですけどね。

 そこへいくとフランク・ザッパ先生が10代前半からぞっこんになっていたのは1950年代、60年代のR&B、特にドゥーワップだそうですから、まさに時も場所も先生の生活と密接につながっています。とても羨ましい状況です。青春時代が詰め込まれているわけです。

 ザッパ先生は高校時代に盟友キャプテン・ビーフハートとそんなレコードを聴きまくっていたそうで、レコードをかけてその型番をあてっこしたと言いますから、相当なものです。驚愕した話なのですが、レコード・コレクターの間では結構ある遊びなんだそうですね。

 この作品はマザーズ・オブ・インヴェンションがルーベン&ザ・ジェッツという変名を使って発表したドゥーワップ・アルバムです。自由度が高かったマザーズのこれまでの作品に対し、徹頭徹尾ドゥーワップで攻めていますから、パロディーだと言われることも多いです。
 
 ジャケットには小さくマザーズ・オブ・インヴェンションの名前も書かれているのですが、発表当時は本当にルーベン&ザ・ジェッツというバンドが登場したと思った人も多かったそうで、実際にラジオでずいぶんオンエアーされました。思惑通りです。

 シングル・カットされた「デゼリ」はチャートで39位となる、いわゆるトップ40ヒットとなりました。もっともアイオワ州のラジオ局での話ですが。また、実際に真剣なファン・レターが結構送られてきたそうです。やはりこの音楽スタイルは根強い人気があるのでしょう。

 他のアルバムを作っている最中、休憩時間にマザーズの面々が始めたドゥーワップ・スタイルのコーラスが発端だったという話もあります。それを面白がったザッパ先生が高校時代から考えていたR&Bアルバムの制作につなげたというのです。

 その意味では動機はとても純粋です。若い頃に大好きだった音楽で埋め尽くしたアルバムを出す。楽曲の半分近くは、これまでの作品の中から、R&Bやドゥーワップに適した楽曲を引っ張ってきて、見事なアレンジで仕上げていきます。

 聴き物はボーカルで、先生の低音、レイ・コリンズとロイ・エストラーダのファルセットのコンボはなかなかのものです。クリシェも多用して当時のサウンドを彷彿させながら、しっかりと先生の編集の妙もみせていくというなかなかに味わいのあるアルバムです。

 その意味では曲の組み立て方が大きく異なるわけではありませんが、全体にR&B趣味で一本筋が通っているところが他のアルバムと一線を画す結果になっています。先生にも青春があったということを再確認させてくれて、親近感がわいてくる作品です。

Cruising With Ruben & The Jets / The Mothers Of Invention (1968 Bizarre) #005

*2011年11月24日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Cheap Thrills
02. Love Of My Life
03. How Could I Be Such A Fool
04. Deseri
05. I'm Not Satisfied
06. Jelly Roll Gum Drop
07. Anything
08. Later That Night
09. You Didn't Try To Call Me
10. Fountain Of Love
11. "No. No. No."
12. Anyway The Wind Blows
13. Stuff Up The Cracks

Personnel:
Ray Collins : Lead Vocals
Frank Zappa : Low Grumbles, Oo-wah and Lead Guitar
Roy Estrada : High Weazlings, Dwaedy-doop & Electric Bass
Jimmy Carl Black and/or Arthur Dyer Tripp III : Lewd Pulsating Rhythm
Ian Underwood or Don Preston : Redundant Piano Triplets
Motorhead Sherwood : Baritone Sax & Tambourine
Bunk Gardner and Ian Underwood : Tenor and Alto Saxs