あれも聴きたいこれも聴きたい-BrandX
 被害者が出るようなハードコアな変態はもっての他ですけれども、愛すべき変態というのもないわけではありません。変態自慢は鼻白むものですが、愛すべき範疇に留まりながらも、背筋が凍る変態には拍手喝さいを送りたいものです。

 音楽の世界にも変態は多いですが、多くは音楽以外の生き方の部分です。サウンド面ではゲロの音などを使った変態サウンドは多いですが、ひたすら音楽的なのに変態、というのは数少ないと思います。その筆頭がこのブランドXのパーシー・ジョーンズのベースです。

 フレットレス・ベースから醸し出されるうねうねとのたくるようなベース音は独特の世界です。怖い怖い音ですが、病みつきになってしまいます。恐ろしい人です。そもそもベースという楽器自体は普通の意味で変態っぽいです。

 チョッパー奏法以前には妙な指使いで弾いたものですし、スージー・クワトロ曰く「子宮に響くのよね」ですし。ベース弾きにはどこか内向きのイメージもあります。そうした諸々を純化した変態ベースがジョーンズのベースだと思います。

 ブランドXは、ジェネシスのフィル・コリンズがドラムを叩いているので、彼のバンドだと思われていますが、そういうわけではありません。バンドというよりもセッション・ミュージシャンの集合体のようなニュアンスが強く、プロジェクト色が強いです。

 職人芸的な楽器使いで、米国のクロスオーバーへの英国からの回答とも言われるように、ジャズ・ロック的な音を得意としています。ほぼ全面インストですし、もともとファンクの白人的解釈から出発しただけにファンキーでもあります。そこに絡んでくるのが変態ベースです。

 クロスオーヴァーは後にフュージョンと呼ばれることになりますが、概ねジャズとロックをまたぐサウンドを指していました。しかし、面白いことにほぼジャズ側からの越境のみがこう呼ばれ、ブランドXのようなロック側からのアプローチは単にジャズ・ロックと呼ばれました。

 この当時、ジャズとロックの関係は、一昔前のプロ野球のように実力のパ、人気のセと一般に捉えられていました。楽器は上手いけれども売れないジャズからの越境はロック界に受け入れられましたが、ジャズ・ファンはクロスオーヴァーなる蔑称を発明したんです。

 一方、人気のロック界からはジャズに越境できないと思われていたので、ブランドXのサウンドにはジャズ界は反応しません。そんな狭量なジャズ界を尻目にブランドXはこうして二枚目のアルバムを発表し、民族音楽っぽさも加えてより自由度を先に進めました。

 タイトルが示すようにはロックン・ロール色はそれほど強まっておらず、むしろモーリス・パートの参加によってモロッコに寄りました。といってもリアル・モロッコではなく、想像上のモロッコ、異国情緒です。超絶技巧による実験はさらに進化していきます。

 チャート・アクションは派手なものではありませんでしたが、ジャンルのわりにはよく売れたと言えるかもしれません。しかし、そんなことはどうでもよいです。私にとってブランドXはその変態ぶりとともに深く記憶に刻み込まれています。面白いグループです。

Rewritten on 2018/12/28

Moroccan Roll / Brand X (1977 Charisma)