あれも聴きたいこれも聴きたい-GratefulDead08
 グレイトフル・デッドの8作目の作品は彼らのヨーロッパ・ツアーの模様を収めたLP3枚組のライヴ・アルバムです。すでにゆうにアルバム2枚は作れるだけの新曲が出来ていましたけれども、彼らが選んだのはライヴ・アルバム、デッドの矜持がみてとれます。

 このヨーロッパ・ツアーは、ジェリー・ガルシアの一言で、クルーに加えて、奥さんや子どもたち、恋人にエンジニア、事務所のスタッフと多くの関係者が渡欧した大がかりなものでした。家族と一緒というところが大きなポイントです。デッドはファミリーを大切にします。

 ツアーは2か月をかけて、イギリス、フランス、ドイツ、デンマーク、ルクセンブルグ、オランダをまわり、合計すると22回のライヴ・ステージが行われました。デッドのアメリカでの過密ステージ日程からすればかなりゆるゆるで、観光もかねた楽しい旅行だったようです。

 そんな事情ですから、前作ライヴと比べても、かなりリラックスした演奏が繰り広げられています。もう全編これ同じような調子で、ゆるいけれども力強いコクのあるリズムとふわふわした滋味あふれるガルシアのギターが延々と続いていきます。

 バンドはあいかわらずミッキー・ハートが不在で、ビル・クルーツマンが一人ドラムで獅子奮迅の活躍をしています。ピッグペンは医者からはツアーへの参加を止められていたほど健康状態は悪かったのですが、頑張って参加しており、見せ場もを作っています。

 とはいえピッグペンはフル稼働とはいかず、メンバーには新たにキースとドナのゴッドショウ夫妻が加入しました。ドナはボーカル、キースはピアノです。ドナは本作品ではあまり活躍していませんが、キースのピアノは大活躍しています。

 3枚組のアルバムは、最初の2枚に比較的コンパクトにまとまった曲がまとめられており、ようやく3枚目に長尺の演奏が収録されています。「トラッキン」と「モーニング・デュー」がそれぞれインプロ部分を従えて、どちらも20分近い演奏になっています。

 このツアーではもちろん「ダークスター」や「ジ・アザー・ワン」なども演奏されているのですが、ここではそうした曲は省かれています。ラジオ・フレンドリーなデッドを企図した選曲のように感じます。後にこのツアーを網羅した72枚組CDが出るなどと思いもしない頃のことです。

 最初の2枚に収録された曲の中には「ヒーズ・ゴン」、「ブラウン・アイド・ウーマン」、「ジャック・ストロー」、「テネシー・ジェッド」など新曲も盛り込まれています。「ワーキングマンズ・デッド」や「アメリカン・ビューティー」の系譜に連なるタッチの曲で、スタジオ向きかもしれません。

 本作では隙間だらけのサウンドが得も言われぬ至福感を連れてきます。いつものデッドですけれども、ここではゴッドショウのピアノがこれまでとは異なる風味を付加していて、そこが特徴的です。新加入とは思えない組み込まれぶりです。さすがはデッドです。

 ピッグペンはエルモア・ジェイムズのカバー「ハーツ・ミー・トゥー」とオリジナルの「ミスター・チャーリー」で渋い喉を聴かせてくれます。彼のボーカルは初期の頃からバンドの大きな魅力でした。健康問題さえなければと悔やまれてなりません。

Europe '72 / Grateful Dead (1972 Warner Bros.)

*2011年11月20日の記事を書き直しました。



Tracks:
(disc one)
01. Cumberland Blues
02. He's Gone
03. One More Saturday Night
04. Jack Straw
05. You Win Again
06. China Cat Sunflower
07. I Know You Rider
08. Brown-Eyed Woman
09. Hurts Me Too
10. Ramble On Rose
11. Sugar Magnolia
12. Mr. Charlie
13. Tennessee Jed
(bonus)
14. The Stranger (Two Souls In Communion)
(disc two)
01. Truckin'
02. Epilogue
03. Prelude
04. Morning Dew
(bonus)
05. Looks Like Rain
06. Good Lovin'
07. Caution (Do Not Stop On Tracks)
08. Who Do You Love?
09. Caution (Do Not Stop On Tracks)
10. Good Lovin'

Personnel:
Jerry Garcia : guitar, vocal
Bob Weir : guitar, vocal
Phil Lesh : bass, vocal
Ron McKernan (Pigpen) : organ, harmonica, vocal
Keith Godchaux : piano
Bill Kreutzmann : drums
Donna Godchaux : vocal
Robert Hunter : songwriter