あれも聴きたいこれも聴きたい-Boston 高校生の時でした。音質の悪いAMラジオからボストンの「宇宙の彼方へ」が流れてきた時、それまで全く聴いたことがない綺麗な音に腰を抜かしました。本当に驚いて、夢中になったことを覚えています。全米1位にはなりませんでしたが、大ヒットしましたし、日本でも大いに売れました。

 ボストンはトム・ショルツのワンマン・バンドと言っていいと思いますが、そのトムの実に丁寧なりマスタリング作業で、これまでCDでは再現できないのではないかと思われていた音が見事に再現されました。そしてソニーさんの力の入った紙ジャケで再発された2006年、時ならぬボストン・ブームが起こり、オリコン・チャートをかけ上りました。すごいことです。

 ボストンといえば「産業ロック」の代名詞として、やや白い目で見られていたところがあります。産業ロックは、商業性を追求したロックで、レコード会社が工場で売れ筋の曲を量産するというイメージですね。

 しかし、このアルバムの成り立ちを聴いてみると驚きです。これは基本的に個人による「宅録」なんですね。産業ロックの対極じゃあありませんか。

 当時から、トム・ショルツの職人気質報道は多くありました。しかし、当時はまだ世間には、そうした話をすんなりと咀嚼して受け止める受け皿が用意されていませんでした。要するにオタクという便利な言葉がなかったんです。そのことがボストンの産業ロック呼ばわりを防げなかった理由でしょう。

 職人気質という言葉はアーティストには両刃の刃です。「だれのバックでも手を抜かず一生懸命やりますよ」っていうのも職人気質。注文を受けたら何だってやりますよという歌謡曲職人的イメージですね。ですから「産業」と結びついて誤解されたんでしょう。

 「オタク」と言われていれば理解できたでしょうに。言われてみればこんなに精緻な音の作りこみは普通の神経ではできないでしょうし、ましてやレコード会社主導ではとうていできないということにもっと早く気付くべきでした。

 それにとてもポップでした。この作品にはとても綺麗なハイトーン・ボイスを伴った極めてポップな曲が並んでいます。同じようなしつこいこだわりのあるスティーリー・ダンは産業ロックと言われないのに、ボストンがそんな言われ方をするのは、このきらきらポップ性が原因でしょう。

 シリアスの音楽評論家はポップが嫌いです。ついでにMIT卒という学歴も嫌いです。ポップな方が売れるわけですが、大たい一過性だなどと言われてしまいます。精神性、芸術性、ロック魂、みんなポップの対極に位置しています。ショルツのこだわりはサウンドに向かっていて、評論家の言う意味での音楽的成熟には向かっていなかったのでしょう。

 私は「宇宙の彼方へ」のシングル盤を買いました。アルバム自体は友人の家で聴いて、もうそれだけで腹いっぱいになったので、少し遠慮させて頂きました。紙ジャケ再発で初めて買った口です。

 今聴いても「宇宙の彼方へ」は名曲だと思います。ライブでは再現できないだろうと言われていたのに、見事に再現されました。70年代名曲コンピには必ず入りますし、今でも時々CMになっています。独特なギター音と手拍子ビートは古びません。ニルヴァーナの代表曲にも踏襲されていますし。執念が背骨になっている音楽は強いですね。

 ただ、インスト曲なんかは古臭いなあと思ってしまったりもします。それがアルバムを買わなかった理由でもあるんですが...。

Boston / Boston (1977)