あれも聴きたいこれも聴きたい-MilfordGraves 間章という音楽評論家がいました。フリー・ジャズを中心に評論活動を行うとともに、阿部薫のコンサートをプロデュースするなど評論にとどまらない活動をされましたが、わずか32歳で夭折されました。その硬質で晦渋な表現は多くの評論家と一線を画しており、私も若い頃「時代の未明から来るべきものへ」など彼の著作に触れて大いに触発されたものです。

 ミルフォード・グレイブスはそんな間章が「誰も到達したことのない高い位置にいる」とするフリー・ジャズのドラマーです。間章が1977年に日本に招へいして、日本のフリー・ジャズ・ミュージシャンと共演したのがこのアルバムということになります。土取利行(perc,dr)、阿部薫(as,ss)、高木元輝(ts)、近藤等則(tpという当時最高の顔ぶれです。ご存じですか?

 ミルフォードは「ニューヨークの神様」と言われていて、商業的な成功はあまり収めていませんが、ミュージシャンを始め、世人の尊敬を集めている人です。フリー・ジャズの人らしく、また音楽に対する語りっぷりが凄いです。

 私は、この来日の時ではありませんが、80年代の初めに彼の生演奏を見ています。阿修羅のごとくというのはこういうのだなあと思いながら、全身を躍らせてドラムを叩き続ける彼を見ておりました。水の中でドラムを叩いたりする人ですから、どんなことになるのかどきどきしていましたが、意外と正統派な体育会系ドラミングに出鼻をくじかれながらもぐいぐいと惹きこまれて行きました。

 ただ、最も印象に残っているのは、彼のヴォイス・パフォーマンスです。この作品でも聴かれますが、「むほほほほほほほ」と、文字にすると大変間抜けで申し訳ありませんが、アフリカの大地を一気に引き寄せるかのような声に圧倒されました。全身これミュージシャンなんですね。

 この作品ではピアノにも挑戦していて、これがまた素晴らしい。これもとてもプリミティブな味わいです。ピアノをソロで弾き始めて、次第に皆の音がのってくるところは圧巻です。いつ聴いても鳥肌が立ちます。

 全体にミュージシャンのガチ・バトルが展開されていて、緊張感が半端ではありません。ミルフォードと阿部は特に激しくぶつかったそうで、それを聴くと余計に二人のインタープレイのドキドキ感が増します。最近のフリー・ジャズは喧嘩ではなくて格闘技ですから。ちなみに阿部はジャケット右で睨んでいる人です。

 最初に戻りますが、この作品は、間章氏のライナーノーツと一緒に味わうかどうかで、印象が随分変わってくると思います。彼の文体と独りよがりととられかねない言葉の数々は恐らく今の時代には受け入れられないかもしれません。しかし、「音の全きアナーキズム」を目指し、フリー・ジャズの到達点を探し続けた彼は私のアイドルの一人でもあります。このアルバムを聴くたびに合掌しております。

Meditation Among Us / Milford Graves (1977)