あれも聴きたいこれも聴きたい-Zappa04
 「ランピー・グレイヴィー」はフランク・ザッパのオフィシャル・リリース#3、3枚目のアルバムです。この作品はマザーズ・オブ・インヴェンションではなくて、ザッパ先生のソロ名義となっています。なんたってマザーズの連中も参加しているもののオーケストラ作品ですから。

 演奏しているのはアブヌセアルズ・エミュウカ・エレクトリック・シンフォニー・オーケストラと名付けられた結構本格的なオーケストラです。キャピトル・レコードのスタジオにて先生が行ったこのオーケストラのセッションが本作品の大本になっています。

 キャピトルのプロデューサーだったニック・ヴェネットはザッパ先生のオーケストラ作品への情熱と経験を知って、先生に機会を提供しました。1966年のことですからまだデビューしたての頃です。何と大らかな時代だったんでしょう。キャピトルも大したものです。

 滞りなくセッションは終了したのですが、ここから問題が生じます。先生はこの当時MGMと契約しており、指揮者としての活動はこれに縛られないと勝手に解釈していたものの、MGMが異論をさしはさみ、結局、MGMから発表されることになりました。

 しかし、当然オリジナルのままというわけにはいかず、さまざまな語りやいろいろな断片をさしはさんで完成した姿が本作品です。ただし、ザッパ先生もピアノに頭を突っ込んだ対話部分が面白くなってしまい、それまでのプロジェクトが「嫌になった」なんておっしゃっています。

 アルバムはAB両面に約16分ずつ分けて「ランピー・グレイヴィー」1曲が収録されています。インデックス用に22曲分の曲名が記載されていますが、各楽曲の切れ目はまるではっきりしないので、何だか奇異な感じも受ける表記です。

 確かに各断片は曲のまとまりと言えないことはありません。しかし、それぞれが一つの曲として自己を主張するわけではなく、断片どうしが流れるようにつながったり、唐突に鼻のいななきで場面が転換したりして、音全体がめまぐるしく変化していく様は圧巻です。

 とっつきにくそうですが、浮かんでは消えていくメロディーの数々は、名曲「キング・コング」や美メロの代表「オー・ノー」など、後のザッパ作品で新たな息吹を与えられるキャッチーなものも多いです。意外とポップな作品であるともいえます。聴いていて楽しいです。

 随所に現れる変な語りも絶妙に編集されており、たとえ会話だけだとしてもとても音楽的に聴こえます。笑い声やら自己紹介やらナレーションやらを素材とした自由自在なサウンド・コラージュは「フリーク・アウト」のD面を延長した先にあります。

 聴きこめば聴きこむほど新たな発見があり、加えてザッパ作品に親しめば親しむほどさらに愛おしくなるという面白い作品です。特にザッパ先生の室内楽作品になじめばなじむほど、その手法の嚆矢となる作品として見逃せないものです。

 当初の想定とは違う形での発表であったにしても、その不幸を前向きのエネルギーに変えて、アルバム一枚分のコラージュ作品を作り上げた先生はやはり立派です。商業性があるとも思えないこの作品をレコード会社が取りあいしたというのも興味深い話です。

Lumpy Gravy / Frank Zappa (1968 Verve) #003

*2011年8月25日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Lumpy Gravy Part One
01) The Way I See It , Honey
02) Duodenum
03) Oh No
04) Bit Of Nostalgia
05) It's From Kansas
06) Bored Out 90 Over
07) Almost Chinese
08) Switching Girls
09) Oh No Again
10) At The Gas Station
11) Another Pickup
12) I Don't Know If I Can Go Through This Again
02. Lumpy Gravy Part Two
01) Very Distraughtening
02) White Ugliness
03) Amen
04) Just One More Time
05) A Vicious Circle
06) King Kong
07) Drum Are Too Noisy
08) Kangaroos
09) Envelops The Bath Tub
10) Take Your Cloths Off

Personnel:
Frank Zappa
***
Paul Smith, Mike Lang, Lincoln Mayorga, Pete Jolly : piano, celeste, harpsichord
Johnny Guerin, Frankie Capp, Shelly Manne : drums
Emil Richards, Gene Estes Alan Estes, Victor Feldman : percussion
Ted Nash, Jules Jacob, John Rotella, Bunk Gardner, Don Christlieb, Gene Cipriano : woodwinds
Arthur Maebe, Vincent De Rosa, Richard Perissi : French horn
Jimmy Zito : trumpet
Kenneth Shroyer : trombone
Jim Haynes (prob. James Helms), Tommy Tedesco, Tony Rizzi, Al Viola, Dennis Budimir : guitar
Bob West, John Balkin, Jimmy Bond, Lyle Ritz, Chuck Berghofer : bass
Sid Sharp, Alexander Koltun, Tibor Zelig, Ralph Schaeffer, Bernard Kundell, William Kurasch, James Getzoff, Arnold Belnick, Leonard Malarsky, Harold Ayres, Jerome J. Reisler, Phillip Goldberg, Leonard Selic, Harry Hyams, Joseph DiFiore, Jerome A. Kessler, Raymond J. Kelley, Joseph Saxon, Jesse Ehrlich, Harold G. Bemko : strings
Louie The Turkey, Ronnie Williams, Foon The Younger, Roy Estrada, Spider, Motorhead, J.K. & Tony, Gilly and the girls from Apostolic (Maxine, Gilly, Becky, Monica), All Night John, Cal & the other John, Pumpkin, Larry Fanoga Eric & Charlotte ,Monica, Jimmy Carl Black (the Indian of the group) : chorus