あれも聴きたいこれも聴きたい-Billu
 「ビル」はほろりとさせられるとてもいい映画でした。ハリウッドでもちょこちょこ活躍しているイルファン・カーンが演じる主人公のビルはインドの片田舎で貧乏床屋を営みながら妻子を養っています。その片田舎で映画のロケがあり、スーパースターがやってきます。

 実はそのスターはビルの幼い頃の親友でした。その話を聞いた村は大騒ぎになりますが、一介の床屋のビルはスターに近づくことができず、やがて嘘つき呼ばわりされてしまいます。家族にも信用を無くしかけたその時。察しの良い方にはお判りでしょう。

 本物のスーパースター、シャールク・カーン演じるスターはビルがその町にいることを知らないまま、歓迎会で聴衆を前にして、自分が今あるのはビルのおかげだということを語って聞かせます。二人は再会し、ビルは信用を取り戻し、ということでめでたしめでたし。

 シャールク・カーンもイルファン・カーンも、その奥さん役の元ミス・ユニバース、ララ・ダッタも迫真の演技ですし、話の運びもテンポがあって、最後のカタルシスまで一気に見せてくれました。しかし、大ヒットにはなりませんでした。

 それには訳があります。もともと「床屋のビル」、「ビル・ザ・バーバー」で公開されたのですが、床屋カーストの方々から「バーバー」が差別用語だとして抗議の声が起こり、タイトルが「ビル」だけになりました。けちがついたおかげで何となく忌避されてしまったんです。残念。

 しかし、音楽の方は、映画の中で映画を撮っているという利点を最大限にいかして、主要3曲には当代インドを代表する美人女優三人、プリヤンカ・チョプラ、カリーナ・カプール、ディーピカ・パドゥコーネがカメオ出演して盛り上げた結果、大いにヒットしました。

 2018年3月現在、ユーチューブでの再生レースでは、ディーピカの「ラヴ・メラ・ヒット・ヒット」が6000万回で断トツ、カリーナの「マルジャーニ」が3000万回。私が大好きなプリヤンカは曲に恵まれませんでした、80万回と惨敗です。

 音楽はヒット・メーカーのプリタム・チャクラバルティが担当しています。彼の作品はキャッチーなメロディーが特徴で、テレビ映えするタイプの曲が多いです。時にそのキャッチーさが時に下品さの方に落ちていく人ですが、この作品はなかなかいい感じです。

 多くのプレイバック・シンガーが起用されています。パキスタンのカッワーリーを代表するラハット・ファテ・アリ・ハーンも一曲だけですが、カッワーリー調の曲を歌っていて、アルバムのいいアクセントになっています。

 カリーナの「マルジャーニ」はスクヴィンダー・シンとスニディ・チョーハン、ディーピカの「ラヴ・メラ・ヒット・ヒット」はネラジ・シュリダールとトゥルシ・クマールと人気の男女歌手コンビの対決ともなっています。歌手としては前者が好きなんですが、やはり曲が。

 最大ヒットの「ラヴ・メラ・ヒット・ヒット」は、この当時、インドの忘年会で日本の若者たちが踊ってくれたので、私にはいい思い出になった曲です。それほど当時はインド中を席巻していました。振り付けもよかったし。懐かしいです。

Edited on 2018/3/11

Billu / Pritam (2009 T Series)