あれも聴きたいこれも聴きたい-MC5
 元祖ガレージ・ロックのMC5です。何でも元祖な人たちで、元祖パンク、元祖ヘビメタとも言われます。パンクにはブルースすぎますし、ヘビメタにはパンクすぎる気がしますから、まあガレージ・ロックの元祖が適当なんではないでしょうか。

 MCと言っても、マスター・オブ・セレモニーのMCではありません。モーター・シティーのMCです。今では見る影もありませんが、私たちの年代にとって、デトロイトは自動車の町、ミルウォーキーはビールの町というのが常識です。そのデトロイトの5人組という意味です。

 彼らは過激な衣装にアンプを並べた大爆音のステージで名を馳せるとともに、マネージャーのジョン・シンクレアがホワイト・パンサーという過激派グループを率いるリーダーだったために、政治的なパフォーマンスでも有名になりました。

 シカゴの歌にも歌われたことで日本の洋楽ファンの間でもなじみが深い、伝説の1968年の流血の民主党大会で演奏したのも彼らです。60年代の終わりころは、今では考えられないくらいの政治の季節でした。

 もっとも彼らは歌詞で政治的なメッセージを訴えたわけではなく、♪乳首が硬くなる♪なんて繰り返しシャウトしていました。こういうところが私は好きです。メッセージは直接言葉で発するのではなく、態度で示す方が有効です。

 さて、このアルバムですが、前代未聞のライブ録音によるデビュー作です。今でもなかなかないでしょうが、当時としてはまさに前例のない出来事でした。結果的には大成功で、彼らの魅力を真空パックして詰め込むことに成功しました。今でも結構聴かせます。

 無骨でパワフルなギターと疾走するバタバタしたリズム陣、シャウトしまくるボーカルの組み合わせで、奏でるハイエナジーなロックは時代を超えて訴えかけるものがあります。売れ過ぎなかったところもロックです。

 ロックという言葉を聞いて思い浮かべる音楽は人それぞれでしょうけれども、その最大公約数をとっていくと彼らの音楽に行き着くのではないでしょうか。誰がどう聴いてもロックとしか言いようがない。これこそがロックです。

 このアルバムが発表された当時は「ニュー・ロック」や「アート・ロック」だなんだとロックの世界がややこしくなっていく途上でした。そうしてみるとこのアルバムはパンクが果たした役割を果たしたとも言えます。それ故、後のミュージシャンへの影響力が大きい。

 ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトなども子どもの頃によく聴いていたと言っていますし、何度も何度も再発見されるバンドとして徐々に伝説が深まっていきます。解散後の編集盤やライブ盤の数も半端ないです。

 MC5にはパティ・スミスの旦那さんのフレッド・スミスも在籍していました。ギターのウェイン・クレイマーも後に活躍しますし、MC5の精神は脈々と受けつがれていきました。伝説のバンドの最良の瞬間を収めたこの作品はその全ての源として輝いています。

Edited on 2018/1/7

Kick Out The Jams / MC5 (1969 Elektra)