あれも聴きたいこれも聴きたい-KidaTaro
 本作品はCD3枚組全101曲の特大ボリュームです。浪花のモーツァルトことキダ・タロー先生の代表曲を厳選した作品集です。生まれは昭和5年といいますから、御年80歳。生誕80周年を記念する作品を出してなお、ますます意気軒高です。

 この作品はかつてインディーズ・レーベルから発売された同名の楽曲集をたたき台に発掘音源やら何やらを加えてさらにパワーアップしたバージョンです。一枚ずつCMソング、ラジオ・TVテーマソング、歌謡曲とジャンル別に整理されています。

 私にとってキダ・タローは芸人や芸能人よりも一段格の高い「関西の紳士」でした。バッハのような髪型、うらやましいほどのいい声、いつもにこやかな風貌、上品な音楽家でしかも面白い、と「尊敬」のまなざしで見ていたものです。ずっと若い頃、30年以上前の話ですが。

 そんな憧れのキダ先生の楽曲を初めてまとめて聴きました。私は生まれも育ちも関西なので、キダ・タローのメロディーは脳の奥深く刷り込まれてしまっています。聴き進めていくにしたがって、どんどんそのことが実感されていきました。

 ロックが好きだのジャズが好きだのクラシックがどうだのなんだの言ってみたところで、私の音楽人生はキダ・タローに育まれたものであったという事実の前には、何を偉そうにしてんねん、ちゃんちゃらおかしいわ、と笑われる気もしてきました。恐るべしキダ・タロー。

 改めて聴いてみますと、やはり「出前一丁」や「かに道楽」などのCMソングが凄いです。中でも最高傑作は「有馬兵衛向陽閣」でしょうか。わずか3.8秒の曲ですが、関西人であればこの文字を節をつけずに読むことは不可能であろうと思います。

 今回の再発見は「日本海みそ」ですかね。心が和みます。それに、ラジオ・TVテーマソングにもやはり思い出深いものが多いです。やっぱり先生にはお世話になっています。特に「プロポーズ大作戦」は今でも傑作だと思います。

 ご本人によると「CMは1日6本が限度」だそうです。どれだけ多作なんだと驚きます。そんな多作なればこその遊び心が満載で、ウェスタンあり、マーチあり、ラテンあり、ビッグ・バンドありと音楽的にも面白いものが多い。「平成古寺巡礼」なんて美しいメロディーもありますし。

 それに引き換え、残念ながら歌謡曲の方はあまり面白いものはありません。ただ、「アホの坂田」だけは外せませんね。メキシカンハットダンスのパロディーというかそのまんま引用した曲で、キダ・タロー盗作事件としてネタにもなりました。

 残念ながら、全国の坂田君がいじめられるというクレームがついて廃盤になってしまうという因縁の曲でもあります。「爆笑寄席」のテーマとともに、全盛期のアホの坂田師匠の凄さをうまくパックしたキダ・タロー先生渾身の名作でしょう。

 最後のキダ・タロー・シンフォニーは面白い試みです。一般参加者114人によるオーケストラ・バージョンですが、ちゃんとした演奏です。巷の腕達者が集まったんでしょう。キダ・タローの人徳によるといっていいでしょう。何と言っても天才ですから。

Edited on 2017/11/12

Kida Taro no Honmani Subete / Kida Taro (2010 Rice)