あれも聴きたいこれも聴きたい-Mozart
 大変なことになってしまいました。東日本大震災のようんだ大災害と時を同じくするということは何ともやりきれないものです。何もなく過ぎていく毎日ばかりではないという当たり前のことをこれほどの強烈さで思い知らされるとは。

 直接は大した被害にあっていない私にできることは鎮魂のために祈ることです。そんな時に相応しい音楽として、まず頭に浮かんだのがモーツァルトの「レクイエム」です。モーツァルトの未完の遺作となり、自身の魂を鎮める役割も担った曲です。

 クラシックにほとんど縁のないままに齢を重ねてきた私ですけれども、通称「モツレク」として親しまれているこの楽曲は若い頃から聴いている数少ないクラシックの名曲の一つです。きっかけは忘れましたが、恐らくはレコード店で入門編として勧められたのだと思います。

 モーツァルトは必ずしも熱心なキリスト教徒ではなかったそうですが、死の間際に書かれたこの作品は祈りに満ちています。死の世界からの使者に頼まれて書かれたという伝説もあるほどに、死の世界と隣り合わせの楽曲です。鎮魂にふさわしい楽曲だと思います。

 死者を悼むことは人間が人間であるためのとても重要な行いだと思います。煎じつめればそれが唯一の動物と人間との相違ではないでしょうか。また、その際、音楽が果たす役割はとても大きいです。

 モーツァルトのレクイエムはヴェルディ、フォーレのそれと合わせて三大レクイエムと呼ばれます。しかし、このレクイエムは未完も未完、ちゃんと自身で完成させたのは全12曲のうち1曲だけだとされています。

 さらに第7曲まではスケッチが残されていましたが、それ以降は弟子たちがあらたに作曲しています。出来が悪いとかなんだと散々な言われ方をしていますけれども、それにも関わらず三大レクイエムとされているわけですから、いかにこの作品が素晴らしいか分かります。

 きっと「サザエさん」や「ドラえもん」状態だったんでしょう。作者死すとも新作がどんどん出てくる。モーツァルトの薫陶が常人をして常人たらしめない効果を発揮したということができます。ただし、1曲目の素晴らしさは他を圧倒していますが。

 本作品はカール・ベームがウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してたもので、録音は1971年4月、ウィーンで行われています。合掌はウィーン国立歌劇場合唱連盟で、4人のソロ歌手を擁して壮大な演奏になっています。

 モーツァルトを得意としていたベームは、特に晩年に日本で異常なほどの人気を博しました。しかし、今でいえばパワハラの人で、決して万人に愛されたわけではありません。それでも正確無比な耳をもったベームの厳格な指揮ぶりはこの曲にはぴったりです。

 荘厳な教会の中で響いているかのような鎮魂歌です。一切の媚びは照れは排除され、ただひたすらに死者を悼む。♪主よ、彼らに永遠の安息をあたえ、絶えざる光もて照らしたまえ♪。合掌。

Rewritten on 2017/8/11

Mozart : Requiem / Karl Böhm, Wiener Philharmoniker