あれも聴きたいこれも聴きたい-UA
 UAは体壁系か内臓系か考えてみた結果、彼女は子宮系ではないかと思いいたりました。母になる前から母。若い頃からどこかしら母を感じる人でした。女の中の女という気がします。粘膜系の人とも言えますが、それは母とはちょっと違いますか。

 UAのデビュー15周年を記念し、満を持して発表されたキャリア初のカバー集です。自分でも「いつかやるんだろうな」とずっと思っていたそうです。発表されてから言ってもしょうがないですが、私もいつかUAはカバーをやると思っていました。歌が本当に好きそうですから。

 アルバムはいきなりピンクレディーから始まります。「モンスター」です。小学校の低学年の頃、公園でブランコに乗りながら大声で歌っていた曲なんだそうで、その解説が腑に落ちます。ただ、ここは大声ではなく、スロー・テンポでボサ・ノヴァ風味。いきなり素晴らしいです。

 ドロロンえん魔くんの主題歌、「蘇州夜曲」、ビョーク、レディオヘッド、レッチリ、笠置静子、薬師丸ひろ子、アレサ・フランクリンなどなど、とにかく多彩な楽曲が並びます。15曲入りですけれども、この3倍は候補があったそうで、選ぶのが楽しかったことでしょう。

 感覚としては、好きな女の子にカセット・テープを編集してあげるようなものではないでしょうか。マニアックすぎても駄目だし、媚びても駄目。聴く人ののことを思いつつ、自分の趣味を際立たせる。そんな感じです。

 UAの場合は、子供に「お母さんの歌は難しい。歌いにくい」と言われたので、このアルバムで秘かに子供の心をつかむことを狙っているそうです。子どもにとっての歌はそれはそれは純粋なものです。余計な邪念がない。赤心の歌です。

 そう思いながら聴くとしみじみと心が浮き立ちます。こちらも邪念なく聴けるわけです。「夜空の誓い」は甲本ヒロトとのデュエットで忌野清志郎へのトリビュートになっているようですが、本人にはそういう意識は希薄そうです。それすら考えすぎると邪念。

 曲のアレンジャーは何人かいますし、一曲一曲全然違う。一曲入魂という言葉がぴったりします。UAはそれほどアレンジに口を出さず、自由な演奏に対峙するように、自由に歌ったといいます。もう全体を通して極度なリラックスぶりです。

 しかし、参加しているミュージシャンはそれこそ面白がっていろんなことをしています。たとえば内橋和久は、「ハイパーバラード」で珍しい楽器ダクソフォンを90チャンネル重ねたオケを作っており、「無敵のアレンジ」だとUAも激賞です。

 それにしても、UAはやはり日本語が似合います。「スパルタカス愛のテーマ」は素敵ですけれども、やはり日本語の歌の方が映えるんです。中では、「蘇州夜曲」もいいですが、「ベスト・トラックは「モンスター」だと思います。冒頭なので印象も極端に強い。

 「歌詞を書かなくていいっていうのはもう極楽ですよね!」と楽しそうに語るUAです。プレッシャーから解放されて、ひたすら気持ちよく歌いまくったという作品です。歌いたい歌があるというのは素晴らしいことです。

KABA / UA (2010 ビクター)

(2015/11/12 Edit)