あれも聴きたいこれも聴きたい-Prince2
 プリンスの5枚目のアルバム「1999」はいよいよ2枚組になりました。創造意欲がとどまるところを知らない殿下ですから1枚には収まりきらなかったのでしょう。しかし、2枚組にもかかわらず本作品は400万枚の大ヒットを記録して、プリンスの名をとどろかせました。

 そんなに売れたにもかかわらず、この頃のプリンス殿下はアンダーグラウンドな雰囲気が濃厚でした。裏マイケル・ジャクソンと呼ばれるのはまだ少し先のことですけれども、やはり殿下には薄暗い場所が似合います。お天道様は似合いません。

 今では考えられないことですが、黒人アーティストの楽曲がMTVで流されたのはマイケル・ジャクソンとプリンスが最初です。黒人アーティストそのものが裏街道的な扱いをされていたとは恐ろしいことです。風穴を開けたのが表と裏のマイケル・ジャクソンです。

 殿下は裏街道のままで世間に認知されるという離れ業をやってのけます。ここでは、MTV向けに「リトル・レッド・コルベット」を作り、思惑通りのヘビロテを獲得して、見事に自身初のトップ10ヒットにつなげています。計画通りというところが凄いです。

 怪しい雰囲気ですけれども非の打ちどころのないいい曲です。こんな曲を「ほいっ」と作ってしまうところが、殿下の殿下たる所以です。思惑通りに反応してしまうのが悔しい。ともかく、こんな楽曲をもっとつくればいいのにそうそう作らない。

 この作品からは、他にも「1999」と「デリイアス」がシングル・カットされ、特に後者はそこそこのヒットとなっています。しかし、「リトル・レッド・コルベット」ほどキャッチーではなく、むしろねとりねとりとした感じの曲です。あえてそうしていると思しきところがまた憎い。

 他には「レディー・キャブ・ドライバー」などもキャッチーな曲です。これなどはまんまシーラEの「グラマラス・ライヴ」につながっていきます。殿下のメロディー・メイカーとしての才能も凄いと思うのですが、なかなか正面から出さないところがこれまた憎い。

 このアルバムからプリンスにはまったという人も多いですし、ヒットもしましたけれども、プリンスの作品らしく、何やらデモ音源のような気もします。テクノロジーのせいばかりではなく、基本的に宅録の人ですから、もともとこういう感じが好きなのでしょう。

 しゃわしゃわしたチープにも思えるシンセ・サウンドですけれども、当時も斬新というわけではなく、何だか変なサウンドに思えたものです。しかし、それを殿下が曲にすると何ともいえず気持ちがよいです。デモ音源のような表情もとても魅力的です。

 殿下のサウンドは、スライやPファンク直系と言われますけれども、スライほどクールではなく、Pファンクほど汗がほとばしっているわけでもない。体温をあまり感じないべろべろさ。そういうところにはまる人はとことんはまります。私ははまるまでに少し時間がかかりましたが。

 ところで、これはソロ作品なのでしょうか。ジャケットには小さくてしかも反転していますけれども、ザ・レボリューションが並記されています。ウェンディ&リサなど女性ボーカル陣が参加していることは明らかですが、どっちなんでしょうね。まあ殿下の場合、どうでもいい話ですが。

1999 / Prince (1982 Warner Brothers)

*2011年2月20日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. 1999
02. Little Red Corvette
03. Delirious
04. Let's Pretend We're Married 夜のプリテンダー
05. D.M.S.R.
06. Automatic
07. Something In The Water (Does Not Compute)
08. Free
09. Lady Cab Driver
10. All The Critics Love U In New York ニューヨークの反響
11. International Lover

Personnel:
Prince : vocal, all instruments
***
Dez Dickerson : vocal, guitar
Lisa Coleman, Jill Jones, Vanity, Wendy Melvoin : vocal