あれも聴きたいこれも聴きたい-NathanHaines
 ニュージーランド出身のサックス奏者ネイサン・ヘインズが2001年に発表した名作「サウンド・トラベル」です。ヘインズは、ジャズ・ミュージシャンの父を持ち、幼い頃からジャズに親しんでいたそうですから、ジャズはその血肉に染み込んでいるといってよい人です。

 ヘインズは、10代でジャズ・バンドを結成して、活動をニュージーランドからニューヨークにまで広げていきます。そして、1994年にはレコード・デビューを果たしており、そのデビュー作が翌年に英国でも発表されたことから、英国に活動の拠点を移しています。

 その頃の英国はクラブ・ミュージックの発展期に当たります。ヘインズはそこでフィル・アッシャーと運命的な出会いを果たします。アッシャーは一言では言い表しがたい人なのですが、英国ブロークン・ビーツの立役者として知られるアーティストです。

 この出会いは双方にとって有益だったようです。アッシャーがヘインズにプログラミングを教え、ヘインズがアッシャーに音楽を教えたということで、まさにクラブ・ジャズが発生する過程を見ているようなものです。双方の要素が程よくブレンドされる必要があるわけですから。

 ところで、フィル・アッシャーは、レストレス・ソウルというアーティスト集団の中心人物でもありました。レストレス・ソウルはチリ・ファンクなるレーベルからアルバム・リリースのオファーを受けますが、実現は難しいとみたアッシャーが代わりに推薦したのがこのアルバムでした。

 レストレス・ソウルがプロデュースするネイサン・ヘインズのソロ・アルバムという建付けです。結局、プロダクション名義はアッシャー一人ですし、参加ミュージシャンもレストレス・ソウルと大して関係がありそうもありません。この辺り、クラブ・ミュージック界は大らかです。

 この作品は、本人曰く、「モダーン・ジャズ・フュージョン」です。「ハウス・ビートを基礎としたクロスオーバー・フュージョン」とも言われます。「ニュー・ジャズ」とも言えるだろうと思います。いろいろ名前を並べてみると、何となく音の姿が見えてくるところが面白いです。

 参加しているミュージシャンの中心は西ロンドンのシーンで活躍していた人々であるようです。キーボードには天才と言われるカイディ・テイタムや、ヘインズと同じニュージーランド出身のマーク・デ・クライヴ・ロウの名前がクレジットされています。

 本人もボーカルをとっていますが、同じチリ・ファンクからソロ作品もリリースしているヴァネッサ・フリーマンや、結婚式での演奏の仕事で偶然見つけたヴェルナ・フランシス、チンチンアウトなるバンドとトップ10ヒットを放ったシェリー・ネルソンなど多彩なゲストが加わっています。

 アルバムのサウンドは力強くて気持のいいビートに乗って、とてもきらびやかなサウンドが続きます。曲によって、リズムは変化に富んでいて、典型的なブロークン・ビーツもあれば、レゲエっぽいのもあります。とにかく軽やかにさまざまな音楽を行き来しています。

 パーカッションだけのトラックもあっていいアクセントになっています。おしゃれの極みと言ってよいでしょう。聴いていて気分が高まってきます。ちょっと歌詞が子供っぽくて何なんですが、サウンドは本当に気持が良い限りです。クラブ・ジャズの傑作と言ってよいでしょう。

Sound Travels / Nathan Haines (2001 Chilli Funk)

*2011年2月13日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Wonderful Thing
02. Long…
03. Surprising
04. Impossible Beauty
05. Sound Travels
06. Honeycomb
07. The Illest Hobo
08. Eaeth Is The Place
09. Williams Song
10. Believe
(bonus disc)
01. Earht Is The Place (Froncois K vocal edit)
02. Sound Travels (bonus mix)
03. The Illest Hobo (acoustic mix)
04. Wonderful Thing (instrumental mix)
05. Surprising (instrumental mix)

Personnel:
Nathan Haines : sax, flute, keyboard
Vanessa Freeman, Daniel Vacchio, Marcus Begg, Verna Francis, Shelly Nelson : vocal
Kaidi Tatham, Phil Asher, Kevin Field, Mike Lindup, Mike Patto, Simon Colam, Mark de Clive Lowe : keyboard, synthesizer
Miles Danso, Level Neville Malcom, Danny Huckridge : bass
Daniel Crosby : drums
Chris Frank : guitar
Scott Bailey : trumpet, flugel horn
Williams Cumberbache : percussion