あれも聴きたいこれも聴きたい-LouReed16
 前作から2年と少し間を空けて発表されたルー・リードのアルバム「ミストライアル」です。またまた奥さんがデザインしたジャケットです。ロックンロール・ヒーローをシンプルに表現したデザインで、この頃のルーにはぴったりですが、センスは今一つです。

 本作品でルーはプロデュースにフェルナンド・ソーンダースを起用しました。ソーンダースは「ブルー・マスク」以来の相棒ですけれども、それ以前はヤン・ハマーやジェフ・ベック、ジョン・マクラフリンなどと活動していたミュージシャンです。ルーのバンドでは主にベースです。

 ソーンダースは本作品では従来以上に八面六臂の大活躍をしています。ここではベースの他にギターやピアノなども担当している他、本作品の最大の話題でもある打ち込みサウンド、ドラム・プログラミングを担当しています。時は1986年。自然なことではあります。

 また、本作品はサルサ・キングのルベーン・ブラデスが参加していることでも話題を集めました。後にお返しとなるのでしょう、ルーがルベーンのアルバムにゲスト参加していますから、同じニュー・ヨークのストリートで活躍する同志として気が合う仲なのでしょう。

 この頃のルー・リードは、昔のような尖ったところはありませんけれども、その分、安定したレベルの作品をコンスタントに発表し続けるベテラン・アーティストという印象でした。もはやヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代は遠い昔になりました。

 私も当時はまだ20代半ばでしたけれども、ロック的には今よりも年寄な気分になることが多かった時期です。1980年代のロックは成熟しきっており、ロックは死んだと言われて久しく、ロック界全体に新しい展望が開けなくなってきた時期です。

 そのような時代にルー・リードの存在は象徴的でもありました。新しい展開を期待するわけでもなく、かつての英雄が元気に新作を発表してくれる、その事実だけで救われたような気がしたものです。ルーを前に何ですけれども、ほっとする存在でした。

 しかし、それでもルーは前に進みます。打ち込みの使用も一つ、「オリジナル・ラッパー」でのラップ調の歌などに新展開が見られます。あの頃の現在を記号的に示す要素を取り込んで、前向きに頑張っているルーの姿はまぶしいものがありました。

 一方で、最も安心したのは、美しい「テル・イット・トゥ・ユア・ハート」でしょう。ルベーンも参加した、アルバムの最後を飾るラブ・ソングです。本作品の後の来日ステージでもハイライトのひとつとなっていました。そもそもルー・リードにはラブ・ソングの佳曲がとても多い。

 ステージで見た「テル・イット・トゥ・ユア・ハート」では、ルーのふわふわした曖昧ギターの魅力が全開でした。轟音のステージなのに、この曲でのギターは曖昧さが勝っており、とても感動的でした。この頃のルーは緩急のつけ方も見事でした。

 本作品は決して傑出したアルバムということでもありませんけれども、私は何だかたくさん聴きました。久しぶりに聴き直して、思いのほかシャープなサウンドに驚きました。次作「ニュー・ヨーク」との間に断絶があるかと思い込んでいたのですが、そうでもありません。

Mistrial / Lou Reed (1986 RCA)

*2011年2月9日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Mistrial
02. No Money Down
03. Outside
04. Don't Hurt A Woman
05. Video Violence
06. Spit It Out
07. The Original Wrapper
08. Mama's Got A Lover
09. I Remember You
10. Tell It To Your Heart

Personnel:
Lou Reed : vocals, guitar
***
Eddie Martinez : rhythm guitar
Fernando Saunders : bass, guitar, drum programming, backing vocals, piano, bass synthesizer, percussion
Rick Bell : tenor sax
J.T. Lewis : drums, percussion
Sammy Merendino : drum programming, percussion
Jim Carroll : backing vocal
Rubén Blades : backing vocal