あれも聴きたいこれも聴きたい-LouReed13
 ルー・リード復活!発売当時、「ブルー・マスク」は大変好意的に受け止められました。ルーは常に前進を続けてきたのですが、どうしてもファンは「トランスフォーマー」や「ベルリン」の頃のルーを待望してしまっていました。そこに「トランスフォーマー」ジャケットの登場です。

 レーベルも古巣のRCAに移籍して心機一転、バンドもメンバーを一新しました。バンドはリチャード・ヘルのバンドにいたギタリスト、ロバート・クイン、ベースにはフュージョン畑のフェルナンド・ソーンダース、ドラムには無名だったドーン・ペリーという編成です。

 本作品はこの布陣での一発録りです。前作で活躍していたキーボードもなし。とてもシンプルな音です。クインのギターは技巧を凝らしたものではなく、パンク・ニューウェイブ的なにおいが漂う潔い音です。そしてまるでリード楽器のようなソーンダースのベース。

 ドラムが今一つな気がしないではないですが、うねうねとうねるベースは圧巻です。それにクインを得たギター・バトルが凄いです。シャープなギター・サウンドとともにルーの曖昧模糊としたギターも水を得た魚のように大活躍しています。中期の傑作といわれる所以です。

 曲はすべてルー一人による書き下ろしです。ルーは「僕はヒーローであることを楽しんでいるし、また同時にただの人であることも楽しんでいる」と当時のインタビューで語っています。これまでのソロ・キャリアを総括したかのようです。楽曲もそれに呼応していると思います。

 ♪俺の体温は98.2度だ♪とただの人ぶりを強調した「アベレイジ・ガイ」から、ダーク・ヒーロー時代を彷彿させる「ブルー・マスク」、一連のラブ・ソング路線上にある「ヘブンリー・アームス」まで自由自在です。それをシンプルなサウンドで力強く演奏する。かっこいいです。

 本作品の一番の話題は詩人ルー・リードの面目躍如たる「ジョン・ケネディの死」です。大統領暗殺事件を歌った歌で、静かにつぶやかれる歌詞がアメリカを考えさせる曲です。911事件直後のアメリカの模様を見聞きした時にはこの曲が思い浮かんだものです。

 一方、本作品はルーのおのろけアルバムでもあります。ゲイであることを広言していたルーですが、正真正銘の女性シルヴィアさんと1980年に結婚しています。この作品では♪私は女が好きだ♪と歌えば、♪シ~~ルヴィ~ア~♪と連呼してもいます。

 おまけにジャケットのデザインは奥さんが担当しています。一見して明らかな通り、「トランスフォーマー」のジャケットを使いまわしたもので、一般に「原点回帰」の姿勢を示したものと解されています。出戻りのレコード会社RCAには当然そんな思惑があったことでしょう。

 しかし、中身の方は方向性から何から「トランスフォーマー」とは似ても似つかないのではないでしょうか。ここまで一連のシンプルなロックンロール・アルバムを作ってきて憑き物が落ちたかのようなルーには昔に戻るなどということはあり得ない選択です。

 私としては、ルーの奥さんが私も何かお手伝いしたいと頼まれたルーが、奥さんにジャケットを任せたら、もはや卒業したはずのパブリック・イメージに沿った作品を作ってしまったという説を提唱します。逆手にとったと思うルーと素直に制作した奥さんの同床異夢作品です。

Blue Mask / Lou Reed (1982 RCA)

*2011年1月26日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. My House
02. Women
03. Underneath The Bottle
04. The Gun
05. The Blue Mask
06. Average Guy
07. The Heroine
08. Waves Of Fear
09. The Day John Kennedy Died ジョン・ケネディの死
10. Heavenly Arms

Personnel:
Lou Reed : vocal, guitar
***
Robert Quine : guitar
Fernando Saunders : bass, backing vocal
Doane Perry : drums