あれも聴きたいこれも聴きたい-LouReed08
 ルー・リードの問題作「メタル・マシーン・ミュージック」の次のアルバム「コニー・アイランド・ベイビー」は憑き物が落ちたかのように穏やかな作品になりました。ちょうどヴェルヴェット・アンダーグラウンドの2枚目から3枚目への流れと同様のものを感じます。

 しかし所属レコード会社RCAの度量の広さには驚きます。「メタル・マシーン・ミュージック」を発売したことさえ凄いことなのに、その後、契約を打ち切るでもなく、こうして次のアルバムを発表する。まあ結果的には本作品がRCA最後のアルバムになるわけですが。

 前作で振り切れたルー・リードは本作において自分ですべてをコントロールするようになりました。作られた人格「暗闇の天使」キャラはまだ残ってはいるものの、素の自分をさらけ出した等身大のルー・リード・アルバムが本作品であると思います。

 本来、ルー・リードは極めて常識的な人なのでしょう。それに俗物っぽいところもあります。これまでの姿には多少無理があったように感じます。とはいえ、有名なロック写真家ミック・ロックが撮った物悲しいジャケットの姿にはまだまだ力が入っています。

 肩の力が抜けたような作品ですが、それで作品が面白くなったかというと、それはまた別のお話です。前作までのプロデュース過剰ともいえる作品群と、本作以降の等身大作品群とを比べてみると、圧倒的に前者の方が評価が高いですし、語られる頻度も高いです。

 私はどちらも大好きなのですが、どうやら、面白さを測る尺度を無意識に変えているように思います。以前のルーの作品を測る物差しは音楽だけではなく本人とまわりが作り上げたルー・リードという架空の人格を含めたものであったのでしょう。

 しかし、この作品以降はロックン・ローラーとしてのルーの音楽を楽しむのみです。低迷期と言われるようになっていきますが、音楽自体は充実していきます。意図して奇矯なアレンジを施したりはしなくなり、自然体の演奏が素晴らしくなっていきます。

 本作品で最も有名な曲はもちろんタイトル曲「コニー・アイランド・ベイビー」です。ルーの自伝的な曲だと言われていますが、どうしてもルーとフットボールは結びつきません。ルーは自分の詩はすべて物語だと行っていますから、その言葉を額面通り受け止めましょう。

 それでもコニー・アイランドで青春を過ごした若者の物語として秀逸ですし、モノローグ調のボーカルが次第に盛り上がっていく様子はとても感動的です。派手な仕掛けがあるわけではない地味な曲ですけれども、滋味にあふれるルーの新境地だと思います。
 
 バンドはメンバーが一新しました。ベースにはブルース・ヨウ、ドラムにマイケル・スコルスキーと後のジャズ・グループ、エヴリマン・バンドの二人が初参加し、ギターにはキッスのレコーディング・ギタリストだったボブ・キューリックが加わりました。バンド感が強いです。

 ヴェルヴェッツ風にダイアログが突然爆発する「キックス」などはあるものの、全体に明るくて柔らかいサウンドがアルバムを支配しています。ルー・リードは毀誉褒貶あるものの、常に前に進んでいます。これはこれで素敵なロック・アルバムです。

Coney Island Baby / Lou Reed (1976 RCA)

*2011年1月17日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Crazy Feeling
02. Charley's Girl
03. She's My Best Friend
04. Kicks 刺激
05. A Gift 女たちへの贈りもの
06. Ooohhh Baby
07. Nobody's Business
08. Coney Island Baby
(bonus)
09. Nowhere At All
10. Downtown Dirt
11. Leave Me Alone
12. Crazy Feeling (alternate version)
13. She's My Best Friend (alternate version)
14. Coney Island Baby (alternate version)

Personnel:
Lou Reed : vocal, guitar, piano
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Bruce Yaw : bass
Michael Suchorsky :drums
Bob Kulick : guitar
Godfrey Diamond : backing vocal
Michael Wendroff : baking vocal