あれも聴きたいこれも聴きたい-相対性理論
 相対性理論は物理学の理論の中でも最も有名な理論でしょう。内容を理解することは難しいですけれども、とりあえず名前は皆が知っています。それに名前が名前だけに勝手に多様な意味を付すことが可能です。素晴らしい理論と言えます。

 そういう名前をバンド名にもってくるところに覚悟を感じます。何かとてつもないことをたくらんでいそうです。彼らは、デビュー作「シフォン主義」で世界征服はやめたと宣言していましたが、それは世界を油断させようとする嘘ではないでしょうか。

 相対性理論の音楽は中毒性がとても高いです。出勤前に聴いてしまうと、仕事をする気が全く失せてしまいます。そうして世界をゆるゆるにしておいて、世界征服の第二段階に入ろうという魂胆ではないでしょうか。恐ろしいバンドです。

 初めて聴いた時に、大変申し訳ありませんが、「低空のアゲハ蝶」ことエンタ芸人姫ちゃんを思いだしました。大変申し訳ありません。繰り返し謝っておきます。でも「ペペロンチーノ・キャンディー」なんてそのまんまではないでしょうか。

 相対性理論がなぜ若い人に人気があるのか、考えてみてもどうせ分かりませんから、考えるのはやめておきます。しかし、姫ちゃんの件はだれか同意してくれる人がいるのではないかと思って書いてみることにしました。

 王道ど真ん中のポップス・スタイルです。スタイルは特に目新しくありません。堂々とポップスに取り組んで、がっぷり四つ。ギターも、ベースも、ドラムスもぴちぴちしています。とりわけギターの音色が素晴らしいですし、音のバランスも整っていて、意外に折り目正しい演奏です。

 ボーカルは昔ならば不思議ちゃん、今ならセカイ系の衣装をまとってはいますが、これも王道のかわいいボーカルです。声をつくっているわけではないので気持ちいいです。演奏の感じが初期のブロンディに少し近いような気がします。いや、似てませんか。

 この作品は相対性理論の三枚目のアルバムです。インディーズながらオリコン・チャートでは3位にまで上がる大ヒットになりました。完全に主流となっています。彼らのフォロワーと目されるバンドが数多く出てくるくらいですから、その影響力の大きさが分かります。

 中心となっているボーカルのやくしまるえつこは、とりわけミュージシャンからの尊敬を集める重要人物です。しかし、この作品では曲作りの中心はむしろギターの永井聖一とベースの真部脩一です。歌詞もやくしまる単独のものはありません。ちょっとびっくりです。

 軽快なバンド・サウンドで、年寄りにも優しいバンドなのですが、普通のJポップとは少し佇まいが違います。あぶらだこやらヒカシューやら灰野敬二やら一癖も二癖もある連中と競演することが多く、アーティスト的な雰囲気が濃厚なんです。

 ひたすらふわふわしたサウンドで、歌詞も韻の踏み方が楽しく、とても気持ちよく聴けてしまいますますが、どこかに企みが隠されています。やはり世界征服の野望は隠しきれるものではありません。

Synchroniciteen / Sotaiseiriron (2010 みらい)

(2015/4/25 Rewrite)