明けましておめでとうございます。
そんな悠長なことを言っていられない幕開けになってしまいました。被災地の皆様のご無事をお祈りいたします。

あれも聴きたいこれも聴きたい-Prefuse73
 テクノなどのエレクトロニカ系の音楽とヒップホップとの関係は今一つ判然としないものがあります。サウンド的にはどちらもコンピュータを多用しますから近いのでしょうが、音楽というか世界に対する姿勢の問題として正反対な気もします。

 そこらあたりの考察は面白いものがありますが、ことこのプレフューズ73に関するかぎりは親密の一言でよろしいと思われます。プレフューズ73はスコット・ヘレンのプロジェクトですが、彼はいち早くエレクトロニカからヒップホップにアプローチした人として知られています。

 アトランタのアメリカ人スコット・ヘレンは、数々のプロジェクト名を使い分けており、そのディスコグラフィーも複雑ですが、メイン・プロジェクトはこのプレフューズ73で間違いありません。本作品はそのプレフューズ73の3枚目「サラウンディッド・バイ・サイレンス」です。

 2001年にデビューした時には、ヘレンは「ボーカル・チョップアップ」という技法で名を馳せました。これはラップをサンプリングして細かく切り刻んでプログラミングする手法です。楽器の音ではなくて、人の声を使ったところが当時は新しかったというわけです。

 しかし、当然、この技法は多くのアーティストが使うところとなり、これにうんざりしたスコットは2作目では早くもその技法を放棄し、エレクトロニクスを大幅に取り入れたサウンドに変わります。その後、生楽器をメインとした作品を別名義で出すなど振れ幅は大きくなりました。

 この3作目でのこだわりは、「今までやってきたことを、全部今作でブレンドしたかったんだ」ということで、妙な力を入れず、「プレフューズでは生演奏はやらない」というルールも「全部捨てることにしたんだ」そうです。ルールの断捨離、経験の総動員です。

 業界で地歩を築いて、余裕が出たのか、集大成的な作品を作り上げたことになります。全部で60分強の中にボーナスを入れて全部で22曲ありますが、曲の切れ目がはっきりと分かれていないので、通して聴いてなんぼの世界です。集大成に相応しい。

 このアルバムのもう一つのこだわりは様々なボーカリストとのコラボレーションです。「ボーカリストたちをいつもと違う環境に入れてみたかった」ヘレンは、総勢11組にもなるゲスト・ボーカリストの参加を得ています。選ぶ作業はとても楽しかったことでしょう。

 本人自ら「すごく完成度の高い曲じゃないと、使いたくなかったんだ」と語っている通り、一曲一曲を丁寧に作りこみました、という姿勢がとても気持良いです。それも曲が短いので飽きません。冒険の数々にも係わらず、聴いているととても落ち着いてきます。

 リズムがゆったりしていて、いらちな感じは皆無。ああ良いアルバムだなあと、梅こぶ茶をすすりながら、しみじみとしてしまいました。それは恐らく完成度の高さということでしょう。ヒップホップとエレクトロニカが自然な形で混ざり合っています。

 ゲストで注目はニューヨークのロック・バンド、ブロンド・レッドヘッドの日本人女性ボーカリストのカズ・マキノでしょう。京都出身の彼女はヘレンの生演奏をバックに美しい歌声を聴かせてくれます。私はこの作品の中ではその曲が一番好きです。

Surrounded By Silence / Prefuse73 (2005 Warp)

*2010年12月13日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. I've Said All I Need To Say About Them Intro
02. Hide Ya Face
03. Bad Memory Interlude One
04. Ty Versus Detchibe
05. Expressing Views Is Obviously Illegal
06. Pastel Assassins
07. Pagina Dos
08. Silence Interlude
09. Now You're Leaving
10. Gratis
11. We Got Our Own Way
12. Mantra
13. Sabbatical With Options
14. It's Crowded
15. Just The Thought
16. La Correcion Exchange
17. Hide Ya Face
18. Morale Crusher
19. Minutes Away Without You
20. Rain Edit Interlude
21. And I'm Gone
(bonus)
22. Travel Journal

Personnel:
Scott Herren
***
Ghostface
EL-P
Tyondai Braxton
Claudia & Alejandra Deheza
The Books
Camu
Kazu
Aesop Rock
Masta Killa & GZA
DJ Nobody
Beans