あれも聴きたいこれも聴きたい-Paal
 私はポール・ニルセン・ラヴのドラムにぞっこんです。2010年10月に八木美知依のコンサートでポールのドラムに直に触れて惚れました。彼はノルウェー出身で、この時にはまだ35歳くらいと若いですが、現代最高のドラマーの一人だと思いました。

 ドラムは大げさな身振りで叩く人もいますけれども、ポールはとても動きが少ないです。極端に言えば、二の腕も動いていません。けれども、とても力強い音を出します。鋼のようです。動きが少ないのに、徐々にシャツが汗まみれになっていく姿がたまらなくかっこよかったです。

 このアルバムは2007年にサックス・クラリネット奏者のケン・バンデルマークと行ったデュオ・コンサートの実況録音盤です。ドラムの音は録音によって大きく印象が変わるので、心配しましたが、とても深い音で録音されていてほっとしました。

 私はもちろんポールが手数多く叩きまくっているところが好きなのですが、このアルバムでは比較的おとなしい時間もあります。端正な響きを持っているケンのサックスやクラリネットを引き立てる役目も果たしているからでしょう。主役を引き立たせる役どころです。

 そして、そのおとなしい時間に、オーソドックスで単純なリズムをシンプルに叩いている時のポールも凄い、というところが今回の大いなる発見でした。太鼓の一音一音がとても艶っぽくて、五臓六腑をキューっと締めつけられる感じがします。

 ポールは、1974年のクリスマス・イヴにノルウェーで生まれています。両親が経営するジャズ・クラブで育ったという筋金入りのジャズ男です。お父さんがドラムをやっていたそうですから、子どもが家業を継いだといもいえます。お父さんは嬉しかったことでしょう。

 大学でもジャズを専攻するという一筋ぶりで、弱冠20歳にしてノルウェーでは有名なミュージシャンとなっていたといいますから立派です。その後多くのミュージシャンとコラボレートしたのち、1999年には初のソロ・コンサートを開催するに至ります。

 その後もさまざまなフィールドで順調な活動を続け、今やヨーロッパのジャズ界では屈指のドラマーとして名を馳せています。いろんなバンドを掛け持ちするところが彼の真骨頂で、とにかく多彩なメンバーとともに演奏しまくる人です。

 ケン・ヴァンデルマークは1964年生まれのアメリカ人でシカゴをホーム・グラウンドとして活躍しているリード奏者です。ポールよりも10歳年上ですが、この二人はよほど気が合うのか、デュオとしてのアルバムはこれが4作目になります。

 ケンについてよく語られるところは1999年にマッカーサー奨学金を得たという事実です。この奨学金はまたの名を天才奨学金とも言われる権威あるものだそうで、ジャズマンとしてはセシル・テイラーなどの有名な人がリストに入っています。

 このアルバムのサウンドは、いわゆるフリー・ジャズに分類されるものですが、とても自然に聴こえるところが新世代です。時にリリカルに、時に自由に、千変万化のデュオ・サウンドはライヴ会場となったシカゴの大地を震わせているようです。

Chicago Volume / Paal Nilssen-Love, Ken Vandermark (2009 Smalltown Superjazz)

*2010年12月2日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. New Paper
02. Text Of Sound
03. Mort Subite

Personnel:
Ken Vandermark : tenor sax, bartone sax, Bb and bass clarinet
Paal Nilssen-Love : drums, percussion