ジャケットはのび太さんの得意技、あや取りです。このバンドはジャケットもいいですが、とてつもなく命名のセンスが良いと思いました。グンジョーガクレヨンってどんだけカッコいいのかと、しばらくレコードを前にため息をついていたことを思い出します。

 「群青色と藍色の話をしててさ、群青色っていうとクレヨンで、藍色はクレパスだ、というイメージがあって、そこからきたんだよ」とはメンバーの一人、大森文雄の説明です。私たちの世代には説得力の強い説明です。今はあまりクレヨンでも群青色は見かけないようです。

 グンジョーガクレヨンのこのミニ・アルバムは、吉祥寺のレコード屋ジョージアの店員を中心に設立されたパス・レコードから発表されました。プロデュースもしている後藤義孝のこのレーベルは日本のパンク/ニュー・ウェイブの最重要レーベルの一つです。

 グンジョーガクレヨンは1979年4月に結成されたバンドです。同じ年の暮に京大西部講堂でライブ・デビューし、早くも翌1980年8月にはパスからレコード・デビューを果たしています。とんとん拍子の活動ぶりだと言ってよいでしょう。下積みなし。

 当時から、グンジョーガクレヨンには何だか只ならぬものがあると思っていました。インディーズ勃興期にあって、どこか高揚した空気が漂う中で、彼らは全く浮かれていませんでした。わざわざ半メジャーのパスから作品を発表したところも気負いを感じさせません。

 そう、グンジョーガクレヨンは途轍もなくクールなんです。手元にある紙ジャケ再発盤に解説を書いているのは、松山晋也、竹田賢一、坂本龍一の三氏。グンジョーガクレヨンの音楽同様、この顔ぶれも、いわゆる「ロック」でもいわゆる「ジャズ」でもありません。

 彼らの音の手触りは、今、東京のライブハウスで繰り広げられているフリー・ジャズ系のセッションに近いように思います。とても大人なんですね。それもそのはずで、結成当時、彼らはすでにアラサーだったということです。アラサーも解放したパンク・ムーヴメントです。

 さらに、ギターの組原正はジャズを学び、ベースの前田隆はフォークや歌謡曲のバックなどをやっていたそうで、宮川篤はミスター・カイトで活躍していました。ボーカルの園田游は前衛舞踏などをやっていたそうです。素人集団ではないわけです。

 グンジョーガクレヨンの音楽は、ボーカルが詞を聴かせるのではなく、完全に楽器になっています。ぷりぷりした鋼のリズムに、坂本教授曰く「リアルタイム・ダブ・ギタリスト」組原正のギターが遊びます。本来ありえないリアルタイム・ダブ、この形容は素晴らしいです。

 竹田賢一氏曰く、攻撃的混淆(パンク・フュージョン)な音楽。こちらも素晴らしい形容です。前衛舞踏をやっていたというボーカルとサックスの園田游の佇まいといい、今でも「何だか凄い」と思ってしまいます。とにかくかっこいいとしか言いようのないバンドでした。

 しかし、この作品はライブの凄さが伝わっていないとして、彼らのライブを経験していた人々からは評判が今一つでした。再発にあたってライブ録音がボーナス収録されていて、その一端が伝わります。私はスタジオ盤でも十分凄いと思いますが。

*2010年12月1日の記事を書き直しました。

Gunjogacrayon / Gunjogacrayon (1980 Pass)



Songs:
01. T March
02. Break
03. Waltz
04. 35
05. □ban
(Bonus)
06. Dan-dan (Live)
07. 35 (Live)
08. □ban (Live)

Personnel:
園田游 : vocal, reed
組原正 : guitar
大森文雄 : electronics
前田隆 : bass
宮川篤 : drums