インコグニート ~ ミュージック・マジック・アイロニック
インコグニートがファースト・アルバム「ジャズ・ファンク」をリリースしたのは1981年のことです。本作品はそれから実に45年、2025年の暮れに発表された20作目のアルバム「ミュージック・マジック・アイロニック」です。ほぼ半世紀、まだまだ元気なインコグニートです。 インコグニートはモーリシャス出身のジャン=ポール・”ブルーイ”・モーニックを中心とするロンドン発のコレクティヴです。メンバーは流動的で、参加したことのあるアーティストを並べると長い長いリストになります。もちろん他のバンドで活躍している者も多いです。 なお、インコグニートのデビュー作は確かに1981年に発表されていますが、二作目は10年を置いて1991年の発表です。この間はスタジオ・ワークを中心にジャズ・ファンク・シーンを支えていましたが、同年にジャイルス・ピーターソンのトーキング・ラウドと出会います。 ここで発表した再デビュー作といわれるセカンドによって、ブルーイはアシッド・ジャズ・ムーヴメントの立役者となり、以降、華々しく活躍しています。彼の作品はインコグニート名での作品だけではありません。さまざまなプロジェクトで現在もその精力的な活躍が続いています。 日本にも毎年2、3回はやってきて来日の都度10本以上のライヴを行っているといえば、その凄さが分かるというものです。これだけの活躍をしているのに、インコグニート、すなわち匿名というアイロニーに満ちた名前を冠しているところがロンドンらしいですね。 本作品は不思議なタイトルを付されています。アルバムの最後に出てくる同名曲の中で、ブルーイ自身が語っています。♪私は5歳の頃、音楽を魔法と間違えて呼んでいました♪、それから63年、♪このアルバムが私の魂を魔法のように解放した♪のです。 それがなぜ「皮肉」なのかは今一つ分かりにくいのですが、ともあれ、小さい頃にモーリシャスのビーチで、サトウキビ畑の労働者たちが踊っている姿を見た時の原体験が本作品制作の原動力になっています。とてもピュアな体験が背景にあるわけですね。 その意味では本作品はブルーイにとっても特別な意味をもっていそうです。コレクティヴなので新旧というのも変ですが、本作品に参加しているメンバーには新旧が入り混じっています。本人もパーキンソン病だといいますし、若干集大成的な匂いがしないではありません。 それはともかく、サウンドはクラブ・ミュージックの確立期から活躍しているブルーイらしく、もはやクラシックといってもいいジャズ・ファンク・サウンドが続きます。安心して聴いていられます。ブラスやストリングスも極上の使い方がされていて、とにかく気持ちがいいです。 8人ものボーカリストが起用されており、いずれもかっこいいのですが、中でもフィーチャリング・アーティストとして特記されているゼビュロン・エリスが光ります。ゴスペルのバックグラウンドをもつアメリカ人歌手で、ホワイトハウスでも歌ったことがあるそうです。 制作中に訃報が届いたロイ・エアーズへのトリビュートや、レア・グルーヴ発掘なども含み、さまざまな曲調が出てくるのであっというに70分が過ぎていきます。耳障りな実験などはなくて、とにかく安心して聴けるアルバムです。ベテランの味を堪能できます。 Music. Magic. Ironic. / Incognito (2025 Splash Blue)Tracks:01. It's About Time02. Running Away03. Can't Be A Fool04. Lost Until I Want To Be Found05. Reasons To Love06. Can't Give Up On This Feeling07. In Time We'll Love Again08. This Is Your World09. Changes In Me10. Like Fire In The Rain11. (Your Lovin' Is) Everywhere12. Zahra Smiles13. Strangers Become Friends14. Sweet Enough15. Rain On A Hot Tin Roof16. Late Night On The Subway17. Music. Magic. Ironic.Personnel:Jean-Paul "Bluey" Maunick : guitar, bass, piano, keyboards, chorus, programming, percussionJoy Rose : vocalTony Momrelle : vocalCleo Reign Stewart : vocalMegan Khan : vocalNatalie Duncan : vocalMaysa : vocalImaani : vocalZebulon Ellis : vocalRichard Bull : bass, drums, percussion, programmingkeyboards, guitar, programmingMo Hausler : programmingSki Oakenfull : keyboards, piano, bass, drum programmingSimon Grey : piano, synthesizer, Synth bass, drum programmingGraham Harvey : piano, organ, keyboards, strings, programmingDrew Wynen : gutiar, bass, drum programming, piano, synthesizerCharlie Allen : guitarFrancisco Sales : guitarFrancis Hylton : bass, chorusFrancesco Mendolia : drumsJoão Caetano : percussion, chorusMax Beesley : vibraphoneChicco Allotta : piano, vocal, synthesizerTrevor Mires : tromboneAlistair White : tromboneSid Gauld : trumpet, flugel hornRyan Quigley : trumpetPaul Booth : tenor sax, fluteAndy Ross : tenor sax, fluteKevin Robinson : flugel hornGraham Harvey : strings, programmingSimon Hale : strings, conductorEverton Nelson, Ian Humphries, Natalia Bonner, Warren Zielinski, Marianne Haynes, Richard George, Charlie Brown, Louisa Fuller, Phillipa Mo, Dave Larkin, Gillon Cameron, Dave Williams, Penny Ainscow, Ivana Cetkovic : violinBruce White, Relad Chibah, Virgina Slater, Fiona Leggett : violaChris Worsey, Ian Burdge, Nathanael Horton : cello