夏が終わった | メメントCの世界

メメントCの世界

演劇ユニット「メメントC」の活動・公演情報をお知らせしています。

夏が終わった ・・・ 嶽本 あゆ美

 第四回公演終了致しました。たくさんの方にご来場頂き、誠にありがとうございました。
 初の本公演、私も田中も相当の下駄を履きながら、脱稿以来つっぱしって来ましたが、結果は皆さまにご覧頂いた通りです。夢のような時間を観客の皆さまと持てた事、本当に幸せだと思います。

 私は、ピアノを弾いているので、本番を前から観られません。ゲネプロ中もあまり持ち場を離れられず、実際の上演はブラインドの状態、耳の中でしか分かりません。ただ、老眼と近眼が酷いせいか、普通の方よりは耳から得る情報量が昔から多く、たいていの事が分かりました。俳優が乗りにのっていることや、舞台上での駆け引きを楽しんでいることなどを。

 演出の田中はプランについでそれほど私に説明をしませんでしたし、私も作品意図などという野暮な事を解説もしませんでした。それほど、この二作品は私と田中の中で、カスケードされた状態で存在していました。チェーホフが原作であるということは二の次でした。

 音楽を一緒にどうしようかと考えていると、田中の意図することが音の成り立ちとして分かります。音とはかなり数学的で、物理が得意だったという彼女の言うことは構造的であり雰囲気に流されません。あるべき音が、あるべきせりふの合間に置かれていきます。その共同作業が一番のおいしさでしょうか。

 今回、本番で使用したアンティックなピアノは、田中の個人所有のものです。KAWAI製で、昭和10年の製造です。通常88鍵ある所が、66となっており、調律師さんによると、三十年調律をやっていてこの種類のピアノに出会ったのは二台目だそうです。保存状態もよく、弦も切れずに本番を持ちこたえてくれました。公演中、豪雨だった時は、くぐもったような音で可哀そうでした。あれで、ゴールドベルクを弾いていると、まるでチェンバロのようで、繊細な音に愛おしさを感じて芝居の導入にはぴったりでした。

 何を好き好んでピアノまで運んでくるのか?と思われる方もいるとは思いますが、生の楽器の音はすごい音響デザイナーのプランを凌ぎます。コンクリートの壁や床、天井に反射してどうなるかと思いましたが、背面に吸音材を入れるとすっきりと収まってくれました。ギターの生音もたまらなくロマンチックな風情を「ともしび」に与えてくれました。

 私は「ともしび」では音響操作も担当しましたが、予算の関係やら、スタッフの人数の関係やらでピアノの廻りをコクピットのようにしての本番となりました。間違えないように、愚直にチェックあるのみでしたが、何とか本番を終えることができました。時々、蛸のように手が八本あったらなあと思いましたが、まあ、普通に予算があればちゃんと音響スタッフを頼みますから、そのほうがよろしいに決まってます。

 息遣いさえ感じながら背中越しに聞くせりふ、振りむきたいという欲求が高まれば高まるほど私は集中力が増して行きます。耳がダンボ以上に開いていくのを毎回感じました。次回、晴れて客席に居ることができれば嬉しいですが、田中が求める限りは舞台の隅で音を奏でたいと思います。
 あのピアノは、次回にはどうなっているでしょう?時を経るということは何ものにも代えがたいのですな。
 舞台写真をたくさんアップします。半分、自分が観る為でもありますが、どうか見逃した表情があれば、眺めて下さい。
 気が付いたら夏が終わりかけていて、リビアのカダフィ大佐も五里霧中のようです。

 現実は厳しいなあ。

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