2024. 9. 15  産経新聞「サンデー正論」
田北真樹子 (特任編集長) 氏

今や、戦争でドローンは不可欠な存在。
防衛省は令和7 (2025) 年度予算で導入のため約30億円を要求。
それはドローン操縦人材の必要性でもあり…
銃撃戦ゲームなどに親しんでいるゲーマーを自衛官にどうか…という提案。
ずっと以前から自分も思っていたこと!




〝ゲーマー人材を自衛官に〟
 〜ドローン戦に備える〜


塹壕の中から攻撃

「ドローンなしでは戦線は維持できない」

今春、5回目となるウクライナ取材で、東部ルガンスク州で展開するドローン部隊に同行した報道カメラマンの横田徹氏はこう話す。
2年前の現地取材の際もドローンは使用されていたが、その役割は市販の民生機で偵察するぐらいだった。
ところが、今は攻撃するために敵との距離を測り、精密に目標を砲撃し、爆発物を積んで目標に向かって自爆するドローンまで登場していたという。

ウクライナは今年、ドローン部隊を新設した。
戦争の長期化で兵士は疲弊する一方で兵員募集も困難を極めている。
横田さんが取材したドローン部隊には本来の軍人はいなかったといい、海外で勤務していたITエンジニアら優秀な人たちがいた。
指揮官は25歳だ。

ロシア軍の陣地から約5㌔の最前線にあったウクライナ軍の塹壕の中。
爆弾を積んだドローンを敵陣地に飛ばした後、兵士2人の一組は狭い塹壕に入るとタブレットを開いた。
一人が攻撃目標までの動線を確認し、もう一人はドローンを操縦する。
目標の上まで飛ぶと、搭載カメラが起動され爆弾投下から爆発までが録画される。
夜間でもサーモ (温度) センサーがついているので問題ない。
その後、ドローンは来た動線で塹壕まで戻る。
実はドローンが戻ってくるときが敵に最も狙われやすいタイミングだという。
ロシア軍がそのドローンを追跡して攻撃する可能性があるからだ。

SNS上でもドローンによる攻撃動画を見ることができるように、兵士が見るモニターにも爆弾が命中して上がる炎や煙は映る。
しかし、音は聞こえない。
人の悲鳴も聞こえてこないだけに、「人を殺しているという感覚は薄い」(横田氏) 。
日本人がこれを聞けば、「ゲーム感覚で人を殺すとは何事か」という批判的な声が出てきそうだが、ウクライナ兵たちにはロシア軍によって殺害された家族や友人がいることを忘れてはいけない。

「彼らは、自分たちが行動しないと殺される。
ロシア軍を追い返さないとやられると思っている」。
横田氏が話す通り、ロシア軍の脅威はバーチャル (仮想) 空間ではなく現実だ。
「ゲーム感覚でやっている」という表現は全くあたらない。

ゲームと変わらない

ウクライナは10日、ロシア各地に大規模ドローン攻撃をかけた。
ロシアは国内8州に襲来した144機を迎撃したとしており、モスクワ近郊で1人が死亡した。
ドローンによる攻撃は今後、確実に増える。

ウクライナは今年、無人機100万機の運用を目指している。
製造目標も100万機を掲げるほか、英国とラトビア主導の「ドローン連合」は7月にウクライナに対し、年内にFPV (一人称視点) ドローン1万機を提供する覚書を交わした。
それだけに、ウクライナでもドローン操縦者の採用と育成は喫緊の課題となっており、ゲーム好きの若い人たちに熱視線が注がれている。

米軍もゲーマーの能力に注目している。
若くて最先端の技術に精通する人材が豊富だからだという。
志願兵の減少に苦しんでいる米陸軍は2018年、若年層の取り込みを目指してeスポーツチームを立ち上げ、広報や募集に活用している。

米紙ガーディアンによると、米海軍は年間のマーケティング予算のうち3〜5%をeスポーツ関係にあてており、22年10月〜23年9月には430万㌦ (約6億1800万円) を計上した。
ただ、人気の高いゲームを活用しての広報活動に関して、ゲームの中には民間人殺害の場面が出てくることなどから低年齢層への悪影響を問題視する声も出ているという。

ゲーマーを自衛官に採用することのメリットは何か。

ドローン技術に詳しい慶應義塾大学SFC研究所所員の平田知義氏は「ゲーマーは、勝つために何をやるのかを起点に試行錯誤するから、判断能力と、問題処理能力が高い」と話す。
オンラインでのゲームとはいえ、5、6人のチームで戦うものもある。
年齢も社会的地位なども関係ない。
ケンカのようなトラブルもあるが、役割分担もあってチームワークが身につく。
連携と適応能力が試されるという。


つづく〜