2024. 6. 15. 読売新聞「サイエンスReport」

(沼田良宗 氏)


ずっと以前、フィンランドのドキュメント映画を観て以来、非常に関心のある分野。





〝中間貯蔵施設 今夏にも稼働〟

 〜使用済み核燃料〜



◾️60年間密閉


「この容器に核燃料を60年間にわたって安全に保管できる」


三菱重工業の神戸造船所 (神戸市) で、開発担当の岸本純一氏がこう説明した。

目の前にあるのは、キャスクと呼ばれる製造中の金属容器「MSF-32P」だ。

直径2.5㍍、長さ5㍍の円柱形で、1基あたり約10㌧を保管できる。



三菱重工業製造のキャスク「MSF-32P」

(神戸市、画像一部加工)



原発の使用済み核燃料は長期間、熱や放射線を発する

安全に保管するため、現在は大半が原発敷地内の水を張ったプールに浸され、ポンプで循環する水で冷却されている。

「湿式貯蔵」と呼ばれる手法だ。


これに対し、キャスクでの保管は「乾式貯蔵」と呼ばれる。

湿式貯蔵で10年ほど冷却し、十分に温度が下がると乾式貯蔵が可能になる。

キャスクは燃料から発する熱を金属の表面に逃したうえ、施設に取り入れた空気の自然な循環で冷やす

岸本氏は「管理に水や電気を使わないため、長期的に見ると湿式よりコストが格段に安い」と解説する。


◾️津波の影響受けず


キャスクは鉄や銅、樹脂などの多重構構造で、核燃料が発する中性子線やガンマ線を100万分の1まで遮る

内部には、核分裂反応が安定的に続く「臨界」に再び達しないよう、中性子線を吸収する仕切り板が設けられている。

放射線物質漏れを防ぐため蓋も二重だ。


国際的な安全基準があり、高さが9㍍からの落下、800度の熱、水深200㍍の水圧にも耐えられる頑丈な設計が求められている。

東京電力福島第一原発では、東日本大震災時の津波で浸水しても壊れなかった

原子力規制委員会では、キャスクによる乾湿貯蔵を「湿式よりリスクが少なく、好ましい貯蔵方法」(山中伸介委員長) と推奨する立場だ。


むつ市で今夏にも稼働を始める中間貯蔵施設「リサイクル燃料備蓄センター」は、東電と日本原子力発電が共同出資した会社「リサイクル燃料貯蔵」が運営する。

柏崎刈羽原発 (新潟県) などの使用済み核燃料を3000㌧受け入れ、キャスクで保管する計画だ。


◾️迫る満杯


なぜ施設が必要なのか。


政府は1950年代以降、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、原発で再利用する核燃料リサイクル政策を掲げてきた。

電力各社はプルトニウムを取り出す日本原燃の再処理工場 (青森県六ヶ所村) が稼働するまでの仮置き場として、原発敷地内のプールで使用済み核燃料を保管してきた。



つづく〜