2024. 6. 11  産経新聞「グローバルレビュー」

西見由章 (台北支局長) 氏


中国は、何としても台湾を〝手に入れる〟方策を練りに練っている…その執念はこちら側が相当の覚悟をもって臨まないと、やられてしまうかもしれない。





〝中国が描く「脅迫的統一」〟

 〜カギは台湾への浸透工作〜



中国の習近平政権が描く台湾統一の最有力シナリオは、話し合いによる平和統一でも武力侵攻でもない第三の道「北平(ベイピン) モデル」だ─。

台湾で今、こうした見方が浮上している。


清朝滅亡後の中華民国は首都を南京に置き、北京は「北平」と呼ばれた。

国共内戦の趨勢が決しつつあった1949年1月、北平に拠点を置く国民党軍の華北総司令、傅作義(ふさくぎ) は共産党軍に包囲され、その脅迫を受けて無血開城に応じた。

つまり北平モデルとは国民党軍の流れをくむ台湾軍を共産党軍が再び包囲して降伏させる「脅迫的統一」だ。


北平モデルによる台湾統一を主張する中国側の代表的人物は、人民解放軍の退役少将で、国務院 (政府) 台湾事務弁公室元副主任の王在希氏である。

対台湾政策の権威である王氏は2020年の時点で、「平和的統一の可能性は極めてわずかだ」と中国メディアに断言した。

当時の蔡英文政権が統一どころか「一つの中国」原則すら認めないことや、複数政党制の台湾ではいかなる党も台湾人を代表して、統一問題を協議できないことを理由に挙げた。


では中国に残された道は武力侵攻しかないのか。

王氏が「第三の道」として示したのが北平モデルだ。

大軍を城下に迫らせ、戦わずして (台湾を) 屈服させる」ことで戦争による中国側の犠牲を減らせると主張した。


台湾側にも、北平モデルこそが中国による台湾統一の「唯一の手段」だとする見方がある。

民進党系シンクタンクの政治学者は

「米国が介入する間もなく台湾側が降伏してしまう北平モデルは、中国にとって最も都合がいい」と指摘する。


この学者は、台湾が降伏した後の併合プロセスとして次のようなシナリオを予想した。

まず中国側は、


台湾に住む人々が海外に脱出する猶予期間を半年ほど設定して不満分子を追い出す

さらに通貨の台湾元を人民元に1対1のレートで切り替え、台湾人の資産を実質4倍増加させて歓心を買う

その上で、ロシアがウクライナ侵略で実施したように、中国編入の是非を問う「住民投票」を実施する─。


では中国は台湾の降伏に向けて、どのような道筋を描くのか。

米シンクタンクの戦略問題研究所 (CSIS) が今月5日に発表したリポートは、中国が近い将来、海警局などによる法執行を名目として、台湾に向かう船舶や航空機を制限する「隔離」を行うと予測した。

こうしたグレーゾーン作戦は、軍事的に台湾を完全包囲する「封鎖」や武力侵攻と比べて国際社会の対応が難しいためだ。


一方でリポートは、中国が実際に台湾を投降させるためには「グレーゾーンを超えた軍事的行動に移行する必要がある」とし、中国軍主体の「封鎖」が重要な選択肢になると分析した。


このように「脅迫的統一」戦略は段階的に統一圧力を強めていく

その際、カギとなるのが中国による台湾社会への浸透だ。

北平を明け渡した傅の娘や私設秘書は、実は共産党の地下党員であり、傅側の内部情報の漏洩や世論誘導を担っていたとされる。


中国当局は今後、台湾の政治家軍人ビジネスマン若者らを標的とする浸透工作を強め、「熟したリンゴが自然と落ちるように」台湾が陥落する環境を整えようとするだろう。




〈〝隔離〟における法執行 (中国が勝手に作ったエセ法) を根拠にして、船舶・航空機の制限…というやり方は、今、尖閣諸島でウロついている船団が日本の漁船など拿捕しようと計画している流れと一緒だ。

こちらも〝段階的に〟接続水域から領海侵入の回数を増やしていって、中国領だという既成事実化を目論んでいる。

台湾「隔離」のため重要になるのが尖閣諸島であり、ここでシュミレーシヨン的なことをしているとも考えられる。


〝グレーゾーン作戦〟かつての〝民兵〟や、今後現れるやも知れぬ〝海の民兵〟もこうした発想と同じ…根本にあるのが〝騙し欺く〟ということなんだろう。

こうした中国のやり口をよーく把握しないと。

台湾の人々が目先の利益に囚われることなく、理性と良識で本質を見抜く力を発揮してもらいたいです〉