2024. 5. 31  産経新聞「緯度経度」

三井美奈 (外信部編集委員) 氏

移民を自国内に入れずに、第三国に送る…という案は聞いていましたがメローニ氏が発案者とは知りませんでした。

彼女、叩き上げの苦労人、等々の情報も興味深いです。





〝「極右の女王」が変える欧州〟



イタリアのメローニ首相 (47) が2年前に就任したとき、誰もが短命だろうと予想した。

万年野党の極右党首で、移民排斥を訴えて総選挙に勝った。


その彼女がいま、欧州連合 (EU) で移民政策を牽引している。

6月には先進7カ国 (G7) サミット議長として、不法移民を議題にすると意気込む。


EUでは今月、デンマークなど15カ国が移民流入阻止のため、「イタリアをモデルにせよ」とする共同書簡を発表した。

地中海を渡る移民船はEUに上陸させず、丸ごと「安全な第三国」に送るという計画だ。


イタリアは隣国アルバニアに送る。

港町に施設を作ってもらい、そこで移民審査を行うことにした。

不法移民の大量送還は難しいから、メローニ氏は入れない方法を考えた。

アルバニアのEU加盟を後押しする約束で、昨年11月に合意をとりつけた。


渡航してもEUに入れない」という心理効果は絶大だった。

計画はまだ準備中なのに、イタリアでは不法渡航者は今年1〜4月、昨年比で62%減った


15カ国の書簡には人権大国として知られるフィンランドやオランダ、東欧ポーランドなどが加わった。

独仏2大国抜きで半数以上のEU加盟国が結束し、提案するのは珍しい。


各国がメローニ案に飛びついたのも、手を汚さずに不法移民を追い出せるからだろう。

「難民もいる。門前払いすべきではない」という責任感との葛藤もこのやり方なら解消できる。

「極右政治家」が範を示すなど、EUでは前例がない。


極右とされる反移民政党は、どこもEUたたきが「売り」だ。

メローニ氏は違う。

EUを手繰り寄せ、内側から右傾化させた。

ロシアのウクライナ侵略を正面から批判したことも、北欧や東欧に信頼感を広げた。

フォンデアライエン欧州委員長が「彼女とならやれる」という存在になった。


欧州メディアは、反移民勢力に安易に「極右」のレッテルを貼る。

移民嫌い=人種差別の構図がある。

だが、EUの難民申請は年間100万件を超え、各国は「なんとかしろ」という有権者の声を無視できなくなってきた。



つづく〜