2024. 5. 31 産経新聞「湯浅博の世界読解」
狡猾…ずる賢こく悪知恵の働く中国 (習近平) のやり口がよく分かります。
〝強面ロシアを従える習近平の狡猾〟
共同声明など外交文書の「読解」では、何が盛り込まれたかよりも、何が削除されたかの方が首脳会談の本質を示していることがある。
中露から消えた「制限なし」の協力
ロシアのウクライナ侵攻以降、中露蜜月を象徴する表記は、彼らの友情に「限界なし」、協力に「制限なし」とする歴史的誓約だった。
ところが、16日に北京で開催された首脳会談後の共同声明と会談内容からは、これらの言葉が消えていた。
中国共産党系の環球時報は、代わりに共同声明には「協力」という言葉が130回以上も繰り返され、その関係は「史上最高の水準」にあることを強調した。
とはいえ、選択的な協力を何回繰り返しても、「制限なし」の協力からは大きく後退している。
中国にとってロシアが、米国主導の世界秩序を覆すのに不可欠なパートナーであることには変わりない。
だが、決して対等ではない。
プーチン大統領は習近平国家主席に「兄弟のよう」「中国経済は飛躍的に発展している」とこびても、習氏が支援をせびりに来た人物の賛辞に同調することはなかった。
「制限なし」が初めて共同声明に顔を出したのは、北京冬季五輪の2022年2月、プーチン氏が訪中した際だ。
その20日後、ロシアはウクライナ侵攻に踏み切った。
中国は西側の対露経済制裁に対抗して、ロシア産エネルギー資源を買いまくり、兵器製造に必要な技術や部品を提供してロシア軍需産業を支えた。
しかし、ウクライナ侵略は首都キーウの短期陥落も、ゼレンスキー政権の打倒もできず、ロシア軍兵器の脆弱性ばかりが露呈する始末となった。
まして、核兵器の使用をほのめかすプーチン氏のいくつかの戦術に習氏は同意していない。
英国公共放送BBCは今回の首脳会談直前、ウクライナ戦争が長引くにつれて中露一体化を示す「制限なし」のフレーズが、中国国営メディアの報道から消えていると伝えていた。
今回公表された共同声明などは、まさにBBCの指摘を裏付ける形となっている。
有志国の関与で難しい短期陥落
明らかになったのは、敵が小国であっても有志国が関与すると、短期陥落は難しくなるということだ。
中国による台湾攻撃を米国と日本などの同盟国が抑止する連携の拡大が、それを暗示している。
米カーネギー財団のアナリストはまた
「中国は西側の影響力をそぐ (ロシアの) 目標を支援している」が「無条件に支援しているように見えることが、自国の評価にどう影響するかを非常に気にしている」
と分析していた。
ブリンケン米国務長官が述べたように、ロシアは中国の支援なしにウクライナ侵略を続けることも経済制裁に耐えることも難しい。
狡猾な中国は、「軍民両用」とみなす電子機器、半導体、工作機械に至るまで、ロシアの国防産業を支える部品を提供してきた。
米戦略国際問題研究所は、習氏による23年3月のモスクワ訪問から、対露支援を加速させたとみている。
このとき習氏は、クレムリンでの別れ際に
「いま、100年間起きていなかった変化が起きている」との持論を告げ、プーチン氏に「共に推進しよう」と誘い込んでいた。
ところが、ロシアが戦場で苦戦する一方、中国も経済が減速して国内需要が振るわず、対米・対欧輸出に頼らざるを得ない事情が出てきた。
対露貿易が急増しても、対米貿易額の半分にも満たず、対欧州連合 (EU) 貿易は対露貿易の3倍以上にもなる。
習氏が全面的に「制限なし」のプーチンを支援に入れば、米欧の反発を受けて対米、対EU貿易を犠牲にしてしまいかねない。
従って、「表」向きは、ウクライナとロシア間を取り持つ「善意の仲介者」として振る舞い、米欧との直接的な衝突を避けている。
つづく〜