2024. 5. 11 産経新聞

「世代  ロシア〜止まらぬ侵略〜4」

このシリーズ、ちょっと注目している。

ロシアの住民 (主に高齢者…) の目から見たソ連崩壊とプーチン大統領。





〝ソ連崩壊のトラウマ  今なお〟



1991年のソ連崩壊は今も多くの国民のトラウマ (心的外傷) になっている」。

ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターの所長ボルコフはこう指摘する。


共産主義の総本山として東西冷戦の一翼を担い、80年代には当時のレーガン米大統領が「悪の帝国」と呼んだソ連の崩壊。

ロシアの民主化は、ロシア人にとっても世界にとっても「善」ではなかったのか─。


露大統領プーチンはソ連崩壊から30年余りがたった2022年2月、ウクライナに全面侵攻した。

そのプーチンを、高齢者を中心に多くの国民が支持している。

レバダが今年2月、「国が正しい方向に進んでいると思うか」と尋ねた世論調査では、65歳以上の82%が「そう思う」と答え、世代別で最多だった。


14年のクリミア併合や22年の全面侵攻でロシアは米欧日の対露制裁を科され、経済的にはまっとうな形での発展を望めない状況になった。

しかし、そういうことを意に介さない思考が高齢者にはあるとボルコフは話す。

「危機だって? 90年代を生き延びたのだから何ともない」と。


91年のソ連崩壊に伴って「ショック療法」と呼ばれる急進的な市場経済化が行われ、国民生活を直撃した。


価格自由化によってハイパーインフレが起き、消費者物価は92年に26.1倍、93年に9.4倍、95年に2.3になった。

なけなしの貯金はすぐに紙くずと化した。


ソ連では主な商品の生産が1社ないしは数社の国営企業に独占されていた。

このため公定価格が廃止されると、企業は価格をつり上げて利益を追求することばかり考え、なかなか生産を増大させなかった

国内総生産 (GDP) は92年に前年比14.5%減、93年に8.7%減、94年に12.7%減、95年に4.1%減と落ち込み続けた。


目先が利くごく一部の者が、国営企業の民営化に乗じるなどして莫大な富を築き、驚異的な貧富の格差が生まれた

知識人でさえも、街角で身の回りの品を立ち売りして糊口をしのいだ。

犯罪者集団が各地で跋扈し、暴力が物を言うきわめて不穏な時代だった。


「共産主義の輝かしい未来を信じていた私にとってソ連崩壊は失望だった。

社会道徳が低下し、他者への敬意も失われた

だが、プーチンはそれを取り戻そうとしている」。

モスクワの元獣医、ワレンティナ (60) はこう話す。



つづく〜