2024. 4. 14 読売新聞「あすへの考」
次世代太陽電池、ペロブスカイト太陽電池!
開発者・宮坂力(つとむ : 桐蔭横浜大特任教授) 氏へのインタビュー記事。
日本発祥なのに、中国に先を越されている、、
日本は、スピードアップして本気出してやらなければ、シリコン型の二の舞になってしまう!
〝次世代太陽電池 負けられぬ〟
〜日本発祥「薄くて曲がる」。
でも研究者の半分が中国人〜
地球に降り注ぐ太陽光ののエネルギー量は、2時間で6×10の20乗J (ジュール=熱量を示す単位) に達し、それだけで全世界の年間エネルギー消費量 (石油換算で約140億㌧) をまかなえる計算です。
地球上の生命の源になる太陽エネルギーを電気に換える太陽光発電は、とてもロマンのある技術だと思いませんか。
太陽光発電を半世紀以上にわたり支えたのは、シリコンを材料とする太陽電池です。
建物の屋根や空き地でよく見かけるパネル式のものです。
当初はパネルの表面に貼るシリコンの結晶を作るのに多額のコストがかかりましたが、実用化され大量生産が始まると価格競争が進んで安価となり、今では太陽電池の95%を占めるまでに普及しました。
ただシリコン型は強い光を当てないと十分に発電できないため、パネルを日差しがよく当たる南向きに設置しなければなりません。
また、割れやすいため、分厚いガラスで保護する必要があります。
パネル全体が大型化して重く、設置には広く平らな場所を必要とするといったデメリットがあります。
一方、ペロブスカイト型は、鉛やヨウ素などを化学合成してできた人工の結晶 (ペロブスカイト型結晶) を使って作ります。
最大の特徴は薄くて曲げやすいこと。
発電膜は1マイクロ・㍍ (1000分の1㍉・㍍) 未満と、シリコン型の100分の1ほどです。
また、ペロブスカイト型結晶を液体に溶かし、塗って乾かせば簡単に太陽電池になるため、製造コストはシリコンの半額ほどに抑えられます。
日本は国土が狭いうえ、山間部が多く、シリコン型は設置場所が限られます。
一方、ペロブスカイト型は軽くて曲げられるため、シリコン型では不可能だった建物の壁面、車体の曲面と言った場所に自由自在に取り付けられます。
太陽光を電気に換える「変換効率」が高く、曇りや雨、屋内のように光が弱い条件下でも発電できます。
東京23区にある全ての建物の屋上に設置すれば、原子力発電所2基分の発電が見込めるとの試算もあります。
街全体を分散型の発電所として使用できる潜在力がある。
革命的な次世代太陽電池として期待を集めているのはそのためです。
◇ ◇ ◇
東京大大学院の院生の時から太陽電池に使う半導体の開発に携わり、かれこれ半世紀になります。
曲げられるフィルムが発電したら面白いな、という発想は富士フイルムの会社員時代にはありました。
桐蔭横浜大の教授に転じ、04年に理事長の勧めで大学発ベンチャー企業を設立した後、太陽電池の研究を希望する学生を受け入れました。
その学生は、光や電圧で発光する性質を持つハロゲン化合物のペロブスカイト型結晶を作っており、発電に使ってみたいと提案したので、研究を後押ししました。
発電はできましたが、その成果を海外の学会で発表しても見向きもされません。
理由は変換効率の悪さです。
シリコン型が20%程度だったのに、当初のペロブスカイト型は1%以下でした。
ところが、12年に私の研究室と共同研究していた英オックスフォード大が10.9%という変動効率を達成すると、世界的な注目を浴びました。
私たちや他の研究者らが次々と、ペロブスカイト型をフィルム状に加工する技術を確立したこともあり、世界中の研究者が一斉にペロブスカイト型に乗り換えました。
その結果、たった10年あまりで、シリコン型変動効率に追いついたのです。
信じられないスピードです。
今、ペロブスカイト型の研究者は全世界に4万人いると言われます。
日本発祥の技術なのに、全体の半分が中国人で、日本はわずか1000人程度です。
私が設立した国内6社の共同事業体や積水化学が実証事業を進めていますが、多くの中国メーカーはすでにシリコン型と並行して、次々とペロブスカイト太陽電池の量産化に着手しています。
つづく〜