2024. 1. 22 産経新聞「話の肖像画」
第2シリーズ、緊迫の撮影シーン。
これだけの〝熱〟を帯び、同世代の共感を得たテレビドラマもそう多くはない!
〝台本になかった「加藤優」へのビンタ〟
《「金八先生」第2シリーズの反響は大きかった》
ある高校生たちがアパートの空き部屋で賭けマージャンをしていたそうなんです。
そのとき、誰かが金八先生のチャンネルにしたんですって。
金八の説教が始まったら手が止まって。
みんなテレビを見始め、終わったら誰かがポツンと「俺、今日はちょっと家帰るわ」と。
そのくらい威力がありましたよっていうことですよね。
ことドラマを慶応ラグビー部の青年も見ていた。福澤克雄(※)です。
彼は、言葉で説得する人間なんか一切信用しないという青年だったそうです。
その福澤が金八を見て目の色が変わったって言うんですよね。
もちろん後日の話です。
《加藤優(まさる) は自分を追い出した転校前の中学校の仲間に頼まれ、松浦悟らと放送室に乗り込み校長との話し合いに臨む》
この撮影が朝から大変で。
俺たちをバカにした教師に手をついて謝れというシーンになったとき、優が舞い上がっているのが分かったんですよ。
妙な芝居を始めたんです。
セリフを歌うというか。
演出の生野慈朗さんが「そうじゃないんじゃないか」と言い始めて。
私は優をセットの裏側に引っ張り出し
「お前、セリフ早いし、歌ってるし、生々しさが何もない。普通に言えばいいんだ。感情を込めていいセリフを言おうなんてツラするんじゃない!」って。
越境していることは分かったんですけど、危険を感じたんです。
優が英雄になりすぎているんですよね。
ロケ現場でも感じました。
どこかで優をやっつけないと、勘違いする奴が出てきて真似をするという危機感が。
晩飯後に警察が学校に入ってくるシーンになりました。
後で見てびっくりしました。
優が手錠をかけられたときの力の抜けた無表情。
三国連太郎もできませんよ。
ずっと後年に「よくできたな!」と聞いたら、彼は「もう疲れ果てて。芝居する気もなかった」って言うんです。それがいいんですよね。
《警察から戻ってきた優らを金八たちが出迎えた》
逮捕の次の日の朝から会議室のシーンの撮影でした。校長先生やPTAの役員が集まって。
赤木春恵さんや山田吾一さんら一流の脇役の人たちを集め、一発で撮りました。
皆さん、震えているんです。
長ゼリフで1人半㌻ぐらいあるんですよ。
撮影中、マイクの影がカメラの中に入ったんですが、ベテランの人たちが勘弁してくれ、と。
もう二度とできないからって。
OKになりましたけども。
そのシーンの最後で、優を一発引っぱたいた方がいいと思ったんです。
(※福澤克雄 氏 : 後にTBSディレクター、役員、映画監督など務める方)
つづく〜