2024. 1. 16 産経新聞「話の肖像画」
武田さんの怪(?)進撃が始まる!
〝高倉健に「大将」と呼ばれて〟
《映画「幸福の黄色いハンカチ」の撮影が進むにつれ、山田洋次監督の評価も高まった》
監督から、すごくきれいな言葉をいただきました。
「君の存在感がどんどん膨らんでいくんだ。思わず君に目が行ってしまう」って。
最初に気づいたのは高倉健さんでした。
私のことを「大将」と呼ぶようになっちゃって、旅館に帰る道すがらに
「大将、映画界に入ってまだ1週間ちょっとだろ。今日も思ったけどさ、あの監督さ、大将しか見てねーよ」と。
健さんもバーッと変わったんですよね。
私と桃井かおりを誘って夜、食事に行くようになったんです。
監督やスタッフみんなで食事をしているときに健さんがメモした箸袋が桃井に渡され、私に渡される。
閉じられた箸袋を開くと
「たくさん食べるな、食いに行くぞ 健」
と書いてあるんです。
早めにごちそうさまして、健さん、車のエンジンかけて待っているんです。
スタッフを1人だけ連れて4人で健さんの知り合いのお店に招待してくださるんです。
夢のような時間でした。
でも山田演出の妙ですよね。
こっそり出かけていることは監督もご存じで、撮影に入った2週間目ぐらいに監督が助監督に
「3人が3人になったね。これだったんだ、映画でほしかったのは」
と言ったとか。
自分でも分かりますけど、だんだん上手になっていきました (笑) 。
やがて監督から「武田君」と呼ばれ、「ここはうまくいかないんだ」と言われるようになりました。
陸別駅前の食堂でカニを食べるシーンで、監督は自分で書いたセリフを赤鉛筆で消し「君だったらこんなとき、どんなふうに言う?」と聞いてくるんです。
「モテない男って、自分のバカさ加減をアピールしてして女の子に笑ってもらうと安心するんです」と言うと、「じゃあ、どうするんだい」と言われました。
けんかに強くなりたくて柔道をやり、やればやるほど足が短くなり、カニに見立てて…という自分の過去の話をすると、「そんな調子はいいね」と。
本番でそのセリフを言いました。
私も張り切っていたんでしょうね。
カニの足を両手で2本持ち上げ「足なんか、こんな感じなんだもんね」とアドリブで言ったら監督が笑ったんです。カメラが回っているときに。
そしたら、それが音声に入り録音の技師さんがとめたんです。
「もう一回お願いできますか」と頭からやり直しました。
つづく〜