アーロン・エッカート/サンキュー・スモーキング

¥3,990

タバコ業界のロビイスト(政治圧力団体の代理人)を主人公にした、ヒューマンコメディーです。原作は、クリストファー=バックリーの「ニコチン・ウォーズ」。昨今は厳しい立場に置かれているタバコ業界のために、弁舌たくみに批判をそらすのが主人公の仕事。つまり、かなりの嫌われ役です。ところが、彼の話術があまりにも見事なので、聴衆はついつい丸めこまれてしまいます。ロビイストが支配するアメリカ政治の現実を皮肉った、という意味では、とても知的な作品といえるのかもしれません。

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主人公のニック(アーロン=エッカート)は、タバコ業界の「顔」ともいえる大物ロビイスト。タバコ業界の利益のために、得意の弁舌を駆使して、あらゆる批判を封じ込める。テレビに出演すれば保健省の職員をやりこめるし、タバコ撲滅を目指す政治家にも平然と立ち向かう。もちろん、嫌煙派からは目の敵にされているが、本人はさして気にしていない。

一方で、ニックにも悩みはあった。別れた妻との間に設けた息子のことだ。元妻が、ロビイストのニックから悪影響を受けることを懸念して、なかなかニックと会わせたがらない。だが、息子は悪名高い父親の活躍ぶりを見て、徐々にニックに憧れを持つようになる。ニックと息子の距離は縮まっていく。

こうして、一時はすべてがうまくいっているように見えたが、そこには落とし穴が待っていた。

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本作の見所は、第1に、ニックがタバコ業界の利益を守るため繰り広げる闘いの数々です。あらゆる敵対者をやりこめる様は、痛快の一言に尽きます。私自身は喫煙者ではありませんが、ニックに対峙されたら丸めこまれてしまいそうです。

そして見所の第2は、ニックと息子の関係だと思います。ニックは息子にロビイストの何たるかを叩き込み、息子はそんな父に憧憬を抱きます。ニックが打ちひしがれたとき、息子の説得が彼をもう1度奮い立たせるシーンには、いくらか感動を覚えてしまいました。しかし、よく考えてみると、ニックが守っているタバコ業界は、息子にまで害を及ぼす可能性があるのです。

私が最近見たアンチヒーロー物としては、素晴らしく面白い作品でした。タバコが好きな方にはもちろん、大嫌いで仕方がない方にもお薦めできます。

オススメ度★★★★☆
フライトプラン

¥1,160
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フライト中の飛行機を舞台にした、サスペンスアクションです。公開当時は、テレビ番組の映画紹介コーナー等でもとり上げられて話題となりました。フライト中に子供が消えてしまうという設定もさることながら、主人公を演じたジョディー=フォスターの鬼気迫る演技に、恐怖感を強くあおられます。ストーリーの後半にはアクションも派手になり、娯楽映画としては楽しめました。ただ、サスペンスの真相を明らかにする段がいささか強引で、いまひとつ納得できない部分が残ります。オススメ度を低めにしのは、そのためです。

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ドイツで夫を失ったばかりの主人公カイル(ジョディー=フォスター)は、航空機エンジニアの職を辞して、娘と共にニューヨーク行きの飛行機に乗り込む。夫の死によって精神的に落ち込んでしまい、故郷アメリカに帰ることにしたのだ。

飛行機が離陸したところで、カイルは眠りに落ちる。ところが、目をさますと娘の姿がない。慌てて飛行機中を探すが、どうしても見つけることができない。乗客、乗務員を巻き込んでの大捜索も、娘の発見には至らなかった。それどころか、カイルが娘を連れていることに、誰も気がついていなかったことが明らかになる。

乗務員達は、カイルに疑いの目を向ける。精神的に不安定になっているカイルが、いもしない娘を探して騒ぎをおこしているのではないかと考え始めたのだ。その疑惑を証明するかのように、機内からは娘の存在の痕跡が、ことごとく消えてしまっている。追いつめられたカイルは、それでも自力で娘を探そうとする。

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自分が確かに連れていたはずの娘が、実は存在しないかもしれないという恐怖。自分がおかしくなってしまったのか、それとも周囲が誤っているのか。周囲がことごとく自分を信じてくれない状況で、自らの記憶だけを信じきることができるか。このあたりが、本作の肝ではないかと思います。正直に言うと、見ていて怖くなりました。

蛇足ですが、最後はかなり派手な決着のつけ方をします。それでも、当たり前のように無罪放免になるあたり、さすがアメリカ映画。日本で同じことをしたら、いくら正当防衛や緊急避難を主張しても、おそらく刑事罰を免れないでしょう。

オススメ度 ★★★☆☆
ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習(完全ノーカット版)髭&MANKINI水着付なりきりBOX (Amazon.co.jp仕様)

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ドキュメンタリー風の社会風刺コメディーです。無知なテレビリポーターに扮したボラット(サシャ=バロン=コーエン)が、「カザフスタンからアメリカ文化を学びにきた」という名目で取材を行い、アメリカの政治と文化を徹底的にコケにします。ボラットの言動は、政治的あるいは道徳的に、かなり悪質できわどいものです。笑いを誘われるシーン半分、目を剥くシーン半分といったところでしょうか。

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カザフスタンのテレビリポーターであるボラットは、政府の命令を受けて、アメリカへ文化学習の旅に出た。「進歩的な」考え方が広まっていない(という設定の)カザフスタンで生まれ育ったボラットは、男尊女卑で、ゲイが大嫌いで、障害者は人間でないと思っている。ちなみに、彼の村には、「ユダヤ人追い祭」なるお祭りもある。

そんなボラットがアメリカに来ても、当然その文化を理解できない。気に入った女性には"How much?"(売春婦に値段を尋ねるときのセリフ)と声をかけるし、「障害者と食事を同席するなんて」と平気で言い放つ。カザフスタンが最高の国だと思っているから、アメリカ国歌のメロディに乗せて、"Kazakhstan is the greatest"(カザフスタンは最も偉大な国)と歌い出してしまう。

各地でひんしゅくと怒りを買い続けるボラットは、あるときホテルの部屋で「ベイウォッチ」に出演していたパメラ=アンダーソンに一目ぼれし、彼女を妻に娶ると決意。一路ロサンゼルスへ向かう。

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ボラットの暴挙は、ときに目に余ります。もしこれを日本でやったら、大変な非難をあびるでしょう。そういう意味で、この映画は、必ずしも愉快なものではありません。性的な表現も頻出します。お茶の間で見てしまったら、その場が凍りつくかもしれません。

それでも、「ボラット」には、アメリカの病的な側面をあぶりだしている部分がないわけではないと感じます。例えば、キリスト教原理主義団体の集会(ミサ?)にボラットが紛れ込むシーンがそうです。「人間の祖先はサルじゃない!(=進化論の否定)」と絶叫する男性に対して、参加者は喝采を送ります。その集会には、連邦議員や州最高裁の主席判事も出席しているのです。

「ボラット」は、道徳家を自任される方にはお薦めできません。しかし、アメリカの現状を斜に構えて見る試みとしては、面白いといってよいのかもしれません。

オススメ度★★★☆☆
角川エンタテインメント
理由 特別版

宮部みゆきの直木賞受賞作「理由」 を、大林宣彦監督が映画化した作品です。高層マンションでおこった不可解な事件を、多数の登場人物の証言から解き明かしていくというユニークな手法に挑戦しています。大林監督のインタビューによるとこのような手法は過去になく、非常に斬新であるとのことです。いつも「インディ-ズ」を自称する監督らしい発言だと思います。


キャストは総勢107名にも及び、岸部一徳のような大ベテランから映画初出演の子役まで多彩な顔ぶれです。それだけに演技の上手い下手が素人にもはっきりと分かってしまうのですが、それもまたこの映画の面白いところなのかもしれません。


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東京都荒川区の高層マンションで落下事件がおこった。連絡を受けた管理人が駆けつけると、見知らぬ青年が街路樹の中に倒れていた。同じころ、会社帰りの住人がエレベーター内に血痕を発見し、それが自分の隣室の前にもあることに気づいた。住人に呼び出された管理人がその部屋の中に入ってみると、4人の死体が転がっていた。


当初、この事件は一家殺人事件として捜査された。しかし調べてみると、なんと殺された4人は全く赤の他人であることが判明。謎が謎呼ぶ中、事件は無関係と思われた人々へとつながっていく。


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はっきり言って複雑な話です。文章で正確に説明しようとすると、おそろしく長文になると思います。しかも登場人物の証言だけで展開していくので、集中して見ていないと途中で分からなくなるかもしれません。全体としては「隣人関係の希薄化が進む都市」ですとか、「愛情を知らない現代人の増加」なんていう重たいテーマも射程に入れているようです。


実験的でユニークな作品ではあるのですが、純粋に面白いかと言われると返答に窮します。つまらないわけではありませんが、普段からミステリーが好きな方でないと疲れてしまうかもしれません。


オススメ度★★★☆☆

ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
コールドマウンテン コレクターズ・エディション

南北戦争末期を舞台にしたラブストーリーです。ジュード=ロウとニコール=キッドマンが共演し、ジュード=ロウはアカデミー主演男優賞候補になりました。また、レニー=ゼルウィガーが助演女優賞を獲得しています。激動の時代に引き裂かれた男女の切ない恋愛模様を描いた作品なのですが、さんざん苦労させられる役どころのニコール=キッドマンに清潔感がありすぎて(というか美しすぎて)、少し違和感がありました。ストーリーはとても真面目です。暗いお話なので、気分が落ち込んでいる時には見ない方が良いと思います。原作は読んでいないのですが、きっと映画に負けないくらい内容が重い小説なのだろうなと想像しました。


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19世紀半ば、ミズーリ協定によってアメリカが自由州と奴隷州に分かれていた時代。牧師の娘であるエイダ(ニコール=キッドマン)は父親に付き添ってリッチモンドからノースカロライナ州(=奴隷州)のコールドマウンテンへとやってきた。彼女はそこで大工仕事をしていたインマン(ジュード=ロウ)と出会う。2人は互いに魅かれつつも、なかなか距離を縮められない。


そんな中、ついに南北戦争が始まる。自ら志願したインマンは義勇軍に参加。各地を歴戦する。一方、コールドマウンテンに残ったエイダは父の死によって生活が困窮。インマンに手紙を書くことを心の支えとして、ギリギリの日々を送る。


多くの戦いを経ても生き残ったインマンだったが、ある時ついに重傷を負ってしまう。そんな時にエイダからの新しい手紙が届き、彼は軍を脱走してコールドマウンテンに帰ることを決意する。しかしこの当時、脱走兵は見つかれば銃殺刑になるものと決まっていた。回復したインマンは一路故郷のコールドマウンテンを目指すが、その道中には多くの困難が立ちはだかる。


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陳腐な表現ですが、人間の脆さと強さを感じることができる作品です。ストーリー全体を通じて、多くの生と死が描かれます。少しずつ人間的な強さを獲得していくお嬢様育ちのエイダを見ていると、決してハッピーエンドとは言えない結末にも光を感じます。


性描写が何度も出てきます。小さなお子さんがいるご家庭ではご注意ください。


オススメ度★★★★☆